第5話

親分に信頼されていることを殺し屋は自覚していました。

大事な仕事や報酬の多い仕事は必ず殺し屋に任されました。

いつしか殺し屋を名指ししてくる依頼ばかりになりました。


親分に頼られている。


そう思った瞬間から殺し屋の中で目覚めたものがありました。


「責任とか面倒くさい」


殺し屋は面倒くさがりでした。

もう何もしたくない。逃げ出してしまいたい。どこかに隠れて何かに潜っていたい。

そんな気持ちが、むくりと頭を上げました。


それは親分にすぐに伝わりました。

殺し屋の内なる変化を親分は見逃しませんでした。


親分が鋭く見守る中、殺し屋は面倒くさがりを押し殺して仕事をこなしていきました。

成功を重ねるほど技は極まり、信頼度は高まり、知名度も上がりました。

殺し屋は自分を騙していました。

そうやって親分を騙していました。


親分が取り越し苦労かと思い始めた頃、殺し屋の苦悩は頂点に達しました。


殺し屋は親分に言いました。

「もう辞める」


借金はとっくに返し終わっていました。

それでも殺し屋は親分にお金を渡し続けていました。

返済終了後に親分は金庫を買い、殺し屋のお金を金庫に貯めていきました。

もう殺し屋が仕事をする必要はなくなっていました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る