元カノと別れたらメイド萌えが悪化した

天草 仙

出会いとメイド

太陽のめまぐるしい光が身体全体を燃やすように照らす夏の日の午後。

今日の授業は全て終わり、教室内で帰る準備をしているとそれは突然起こった。

日の光もクラスメイト達の談笑もいつも通りであるというのに異質なそれは明らかにこの教室内では浮いていた。

「ねえ、一緒にかえろ!」

俺が通っている高校の生徒会長、月見 夏目のその一言はあまりにも現実離れしていていた。

俺を含め月見のこの発言に皆面を喰らったのか教室内に不自然な沈黙が生まれた。

それからしばらくすると、皆我に帰ったのかこそこそと小声で話し合っている。

だが、そんな反応をするのも無理はない。

月見は学業優秀。部活動も全国大会に出場。おまけに思わず目を見張ってしまうほどの美人であるからだ。

そんな才色兼備の最強無敵のJKが俺みたいな量産型陰キャに帰りのお誘いをしたのだから当たり前であろう。

「だめ?」

と月見は少し姿勢を下げ頬をやや赤く染め上目遣いでこちらへと寄ってきた。

思わずドキッとしてしまったが、ふと我に帰る。

いや、マジで行きたくない。

これから俺は新作のミステリー小説とラノベを買いに行かなければいけないのだ。(それとちょっとえっちな漫画)

だが果たして月見と一緒に帰って本屋に寄り道できるだろうか?

できたとしてもちょっとえっちな漫画を買っているなんてことがバレたら卒業まで一生ネタにされるだろう。

しかも、漫画の内容がメイドおねしょたモノなのであだ名はおそらくぼっちゃまかぼく君だ。

美人にそういわれるのならばそう悪くないなと一瞬思ったがクラスのしょうもない陽キャ男子にも言われるだろう。

その場合マジでひねり潰したくなる気がしたのでやはり月見と一緒に帰るというのは得策とは言えない。

しかし、このまま断るとクラスメイトから

「月見ちゃんかわいそ~」だの「陰キャのクセにさいてー」だの「あいつ文香も泣かせたもんな」などといった陰口を言われるだろう。

かといって、エロ本たちを諦めて首を縦に振ると「あいつでしゃばりやがって」だの「えー、格差っプルじゃね?」だの「うわ~すぐに乗り換えるとか最低」などといった事を言われるだろう。

要するにだ、今はどんな事を言おうが言うまいが詰んでいることになる。

ならば、正当な理由をつけそれを免罪符に逃げるのが一番実害は少ないだろう。

ただ、少ないだけであってこの場合でも言われるは言われる。

だが、それしか選択肢を残されていないのであればやるしかない。

「あーあー、お腹が痛い。これはおそらくテスト後だしストレスのせいだなー。それに持病の群発頭痛が!?痛い!これは保健室に行

かなくては!それではそういうことなんで、すんません!」

俺は月見の制止にも屈しず走った。

まるでメロスのようにセリヌンティヌスという名の自分の青春とエロ本達を読むために!

自分の教室が4階ということもあり、1階の保健室まではかなりの距離があった。

しかも月見がきしょいくらい早いスピードで追いかけてきたので具合が悪くなってしまった。

彼女の走る姿は人でいうとボルト、虫でいうとムカデだった。

狙った獲物は逃がさないと言わんばかりの姿はもはや女子高生の域を越えている。

いや、あいつマジで何なの?

正直、彼女には俺のようなヤツを追いかける暇があるのならばオリンピックに出場して日の丸の名を世界にしらしめてほしいものである。

「疲れた、まあ様子見計らって帰るか...」

でもマジで月見の目的は何なのだろうか?正直、月見は学園でも3本指に入るほどには美人だ。

そんな月見が俺に声をかけた理由がわからない。

というかあんな人知を越えた走りをする程必死になる意味がわからない。

成績は上の下、運動はめっぽう苦手、顔は自分ではよくわからないが普通からそのしたくらい。(と思いたい...)

しかも、勉強が出来るのも友達がいない為家に帰ってからやることがラノベを読むか勉強をするしかないというからである。

そんな彼女が俺に固執する理由があるだろうか?

答えは否である。

ラノベ中毒者の俺は一瞬実は幼馴染みな可能性も頭をよぎったが生憎、俺には幼馴染みは2人しかいない。

「中崎くん何で逃げるの!?」

はあはあと息をあらげ苦しそうにしながら月見は保健室に入ってきた。

保健室は体調不良以外の生徒は立ち入り禁止で流石に入ってこないと思ったが、月見は倫理感をもぶっ飛んでいるらしい。

「おい、ここは体調を崩した者以外は立ち入り禁止だぞ」

まあ、俺も嘘っぱちなんですけどね。

「えー、なら君だってだめじゃんーさっきの嘘ってばればれだよー」

「そうか、で?何の用だ」

このままだと一生この不毛なやり取りが続きそうなので俺は直球にそう聞くことにした。

「そのキーホルダー...マジコイ読んでるんでしょ?」

???あまりにも予想外過ぎる言葉が出てきて一瞬状況を飲み込むことができなかった。

ちなみにマジコイとは正式名称はマジなメイドと恋。

メイド萌えなオタクなら誰でも知っていると言っても過言ではない名作である。

「まさか、お前マジコイ好きなの?」

「うん!」

はい!許す。これまでのこいつの失礼な態度は全てチャラだ。

まさか、この学校に同士があるとは思わなかった。

「ちなみに誰推し?」

この質問である程度月見のメイドへの理解度がわかるだろう。

「全員かなー」

「そうだ!よくわかっている!メイドなら例え人外の化け物でも皆等しく愛す!それが真のメイド萌だ!」

メイドはこの世界で最も美しく強く儚い最強の生物である。

例えば昨今、国内外問わず政治、経済、はたまた高齢化などが問題となっている。

だが、そんな状況でもメイドの可愛さで政治家は最善な行動をとるようになるし、メイドの美しさで民衆も経済を回すようになるだろう。

それにメイドの麗しさにかかれば高齢化などの問題も皆が手をとり共に生きるようになるのでましになるだろう。

つまりメイドイズゴット。

「同士と言うことは理解してもらえたかな?」

月見がこちらに手を差し出してきた。

ぎゅっと握ると月見の手は壊れてしまいそうなくらい柔らかくつるやかだった。

「じゃ、えっちな本買うのあたしも手伝ってあげる」

月見は俺と手を離した直後にぃと茶化すように笑みを浮かべてきた。

こいつ、やっぱり許さない。

「おい、貴様!なぜ俺が今日エロ本買うことを知っている!?」

こうして俺と月見の奇妙な学校生活は幕を開けたのだった。


~あとがき~

第一話ご愛読ありがとうございました。

第ニ話も現在制作中なので近日公開します。

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では、最後までお付き合いありがとうございました。

また次のメイド化でお会いしましょー!

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