意地悪そうな男
エリー.ファー
意地悪そうな男
死のうかと思った。
しかし。
死ねなかった。
生きるのが下手な人間は死ぬのも下手ということなのだろう。
私は。
意地悪な顔をしている。
そして。
実際、意地悪だった。
妻と息子を殺した。
庭に埋めた。
本当に、本当に。
誰にもバレなかった。
おそらく、完全犯罪である。
自首する気はない。隠せるなら隠した方がいいものである。
きっと、日本には、いや、世界には数えきれないくらいの見つかっていない誰かがいて。
私のような誰かによって、この世に生み出されているのだろう。
最初は、ただの言い争いだった。そのうちエスカレートして。そしてすぐに仲直りをした。
その後に何となく払った手が息子に当たった。
私は何故か息子が倒れたことに気づけなかった。そのまま、トイレに入ってしまった。
出た時には、息子が痙攣していた。ふざけているのだろうと思った。そうこうしているうちに痙攣も終わり、息子が動かなくなった。
息子は死体になった。
私は自分が殺人犯になったことを知った。
妻に見つからないようにすればいい。そんな幼稚な発想が浮かんだ。
気が動転したのか、社会がどのように判断をするのかまで考えられなかった。
息子を隠し。
妻が見つけ。
妻が叫び声をあげて。
私が言い訳。
妻が驚く。
そして。
なんやかんやあって。
私は妻を殺した。
良い天気の日だった。確か、祝日で、金曜日だったように思う。
土日に、妻と息子を埋めた。久しぶりの運動で、いい汗をかいた。
警察には妻と息子がいないこと、金曜日の夜から帰っていないことを告げた。
近所の老婆とコンビニの店員が何を見間違えたのか、妻と息子が手を繋いで夜中にどこかへ向かうのを目撃したと言った。その時間は、もう死体になっていたというのに。
別に、黄泉の世界へ旅立つ姿を目撃した者がいた、ということではない。こんなものはホラーでもなんでもない。
人の記憶なんて、そんなものだ。
結果、私のアリバイは、勝手に証明された。
そう、ありもしないアリバイである。
サスペンスでもなければミステリーでもない。
日常には何の影響もなかった。変わらない毎日が、ただ戻って来て息子と妻がいないだけ。しかし、別に寂しくなかった。家事は嫌いではなかったし、仕事は順調そのもの、自由に使えるお金が増えたのでジムに通うことにした。友達が増え、仲間が増え、そして親友が増えた。
ただ、私の性格は非常に意地悪だった。
これは他人に対してということではない。
自分に対してということである。
罪悪感はないし、飢餓感もない。けれど、満ち足りている時ほど自殺をしたくなるのだ。自分の命を元気なうちに止めてみたくなる、妙な好奇心。
生きるのが下手な私である。
首を吊って自殺をしようかと思ったが苦しそうなのでやめた。転落死も考えたが体が汚くなりそうなのでやめた。電車に飛び込もうと思ったがいつ行ってもホームには人が多く失敗しそうなのでやめた。
そのうち、コンビニの店員が先に自殺をした。介護の果てだそうである。
いいなあ、と思った。
分かりやすい不幸だと自殺がしやすくて何よりですね、と思った。
凍死してみたいと思い、今は南極旅行を計画している。
もう少し、お金を貯めようと思う。
意地悪そうな男 エリー.ファー @eri-far-
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます