【 第2話: ドロボウ猫? 】


「何だよ、こんな薄気味悪いところに逃げ込みやがって! 返せ、このやろう!」

「ニャ~」

『チリリリン……』


 その子猫は、ピョンピョンと跳ね上がるように、軽快に路地の奥の方へと逃げていった。

 俺は、その子猫の様子が、何やら喜んでいるようにも見えた。


「こいつ! 俺をからかってるのか!? 待ちやがれ!」

「ニャ~」

『チリリリリン……』


 そして、俺はその子猫を遂に追い詰めた。

 そう、その先が行き止まりだったのだ。

 道幅はかなり狭くなっていたが、その子猫では乗り越えることができないほどの高いコンクリートの壁がそこには立ちはだかっている。


 もう、この子猫の逃げ場はない。

 俺は、薄暗いジメッとしたこの湿度のある狭い路地で、その子猫と対決することになった。


「へへへ……、子猫ちゃんよ。もう、これでとうめんこ(名古屋弁で通せんぼ=行き止まりの意味)だぎゃ」

「ニャ~」


「もうええ加減、大人しくしなかんぞ~(大人しくしないといけないよ)」

「ニャ~」


「そんなかわええ声出しても、許さんがや。おみゃ~、きゃーさなかんぞ。(お前、返さないといけないよ)」

「ニャ~」


 俺は、何故かその時、10年ぶりに自然と『名古屋弁なごやべん』をしゃべっていた……。

 その子猫は、逃げることを諦めたのか、暗闇の中でも、その瞳を輝かせ、俺の方をじっと見つめている。

 俺は、湿ってヌルヌルした路地を一歩一歩、子猫の方へと歩みを進めた。


「おみゃ~さんの咥えとるもん、だゃーじなもんだで、きゃーさなかんで。(あなたの咥えているもの、大事な物だから、返さないといけないよ)」


 俺は、ゆっくりと子猫に近付き、両手を広げて子猫の行く手をはばんだ。

 しかし、その子猫は俺のことを怖がる素振りを一向に見せない。何故だ……。

 俺をちっとも怖がらない。おかしい……。何かが、おかしい……。


 そう思いながらも、俺は更にその子猫に近付いていった。

 あと数十センチのところで、子猫がピクリと動き、俺の顔をそのかわいいお目々で見つめてくる……。


「(か、かわいい……、いやされる……。何だこの子猫は……。何でそんなつぶらな瞳で俺のことを見るんだ……?)」


 俺は、それが不思議でならなかった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る