【覚醒】第20話 思い出は体の奥深く…
女はマンションの前に居た。
街中の病院から一駅しか離れていない、駅近の10階立の高級マンション。
医師と女の部屋はその9階にあった。
9階の部屋窓からは海が見え、広々としたベランダには朝陽が燦々と差し込む。
この地域では、庶民の憧れの物件であった。
しかし、女は今日もその部屋に戻るのが嫌であった。
特に今日、久方振りに昔の恋人である男を見て、尚更、このマンションの部屋に戻るのが嫌で嫌で堪らなかった。
医師との間には2人の息子が居たが、今は2人とも巣立ち、この数年は医師との二人暮らし。
結婚当初から愛があったわけではないが、今は嫌悪感の塊となっていた。
女は部屋に戻り、そのまま、自室に閉じ籠った。
普段は、家政婦のように、嫌でも医師の夕食の支度をし、風呂を沸かすのであったが、今日は女には全くその気は無かった。
女は服も着替えず、ベットに横になった。
そして、女はベットから見える窓を見遣った。
窓はカーテンが閉められ、外の月光も部屋には届かない。
女は自分が籠の中の鳥の様に思えて来た。
好きでもない男と結婚した。
親の言うままに結婚した。
そして、夫の言うまま、このマンションに来て、娼婦のように身体を授け、子供を産み、子供を育て、家政婦の様に家事をし、病院を手伝い、そして、年だけを取った。
自分の行きたい所には、何処にも行けない。
いつもこのマンションと病院との繰り返し。
同じ景色、同じ空間
「私は籠の中の鳥に過ぎない。」
女は無性に悲しくなり、涙を流した。
今日、女は精神的にとても疲れていた。
女はいつの間にか寝てしまった。
「男の太い逞しい左腕に女は頬を付け安心して寝ている。
女は自然と男に擦り寄った。
今度は男の分厚い胸に頬をくっつけ、男の脚に自分の脚を絡ませた。
男は女の髪を撫でてる。
そして、男の指が頬を撫で、唇を撫でた。
女はその指を唇で咥え、舌を絡め、赤子の様に吸うた。
男は手枕にしていた左腕で女を抱き寄せ、左手の指で女の耳たぶを優しく摘み、そして、耳の中を撫でた。
女は感じて唇を淡く開いた。
男は女の唇から解放された指をすかさず女の乳首に落とし、そして、優しく摘んだ。
女はピックンと身体を靡かせた。
男は掌で女の乳房を包み、時折、長い指を曲げ、乳首を弾いた。
女はビクビクと身体を震わせ、濡れた瞳を男に向け、哀願した。
男は女の哀願を承知し、指を下へ下へとゆっくり這わせた。
女は哀願が叶ったことに安堵し、徐々に徐々に、太腿を開いて行った。
男の指が、女が哀願した部分に届いた。
女は感涙し、男の唇に自分の唇を被せ、我慢できず、男の身体に跨った。
そして、指ではない、真の哀願物を自ら探し当て、それを身体に差し入れた。
「ピンーポンー」と玄関の呼鈴が鳴った。
女は目を覚ました。
部屋の時計は、午後8時を指していた。
夫が帰宅したようだった。
女は夢を見ていた。
あの頃の男との甘く綺麗な日々
いつもいつも、男は女を優しく抱いてくれた。
いつもいつも、男は女を強く抱いてくれた。
そして、いつもいつも男は女を満足させてくれた。
夢のクライマックスを邪魔した夫は、弱過ぎて、女を満足させることは一度もなかった。
女は一つ溜息を付き、濡れた下着を履き替え、部屋を出た。
夫の夕飯の支度をするため、出て行ったのではない。
女は、男の様子を窺う為に出て行ったのだ。
女は男が心配で堪らず、また、男が自分のことを覚えているかいないか、医師との会話に自分のことが触れられなかったか、それを聞きたく、夫の前に行ったのであった。
リビングのテーブルで医師は、自分で作った夕食を食べていた。
女は何も言わず、医師の前に座った。
医師は珍しく姿を現した女の魂胆が分かっていた。
「こいつ、奴のことを聞きたいんだ!」と
女が問うた。
「あの人は、暫く、ウチの病院に通うことになるの?」
「そうだ。」と医師は答えた。
女は「そうなの」と一言呟き、ふうーんと言った感じで頷いた。
医師は、やはり男のことに夢中になる女の態度に無性に腹が立ち、怒鳴り飛ばそうかと思ったが、何となく、女の中に男の気配を感じてしまい、気弱になってしまった。
それでも、医師は女に嫌がらせをしようと嘘をついた。
「お前のこと、何も言ってなかったぞ。」
女は「えっ」と声を発し、医師に疑いの眼差しを投げ掛けた。
医師は思った。
「奴がお前との接触を願っているなど、絶対に言うもんか!言うと、お前は必ず奴に逢う。それこそ、奴の思う壺だ。くそっ!」と
女は、焦りの表情を浮かべ、こう問うた。
「貴方、嘘ついてるわ!貴方、彼を怒らせたの?」と
医師は怒鳴った。
「いろいろ聞くな!」と
女は逆に医師が不機嫌になったことにより答えが分かった。
「前と一緒だわ。彼を意識すると、この人は逆切れするのよ。彼は私のこと言ったんだわ。間違いないわ。」と
医師は、飯の途中で席を立ち、自室に逃げるように入って行った。
女はホッと安堵した。
「あの人は、私を覚えている。」と
女も部屋に戻り、夢の続きを見たくベットに潜り込んだ。
女は布団の中で全裸となり、体の奥深くに何かを探すよう、まだ、乾き切っていない濡れた腿の内に掌を滑らせ、そして、腿でゆっくり挟んだ。
夢の中で男を受け入れたように…
深く深く
体の奥深くに
彼との思い出を探しに…
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