第2話 否が応でも縁は結ばれ
野生動物の咆哮にも似た歓声を浴びながら1年3組の教室へと迎え入れられた久留島初華は、源治の姿を認めるなり満面に笑みを浮かべて手を振ってみせた。蕾が花開いたようなその笑顔は瞬く間に源治の心を居抜き見惚れさせたが、間もなく隣席にいるハズの颯太の顔が視界いっぱいに広がったので源治は不快のあまりこめかみに血管を走らせた。
「もう中津留と知り合ったのかー。漫画みたいだなー。でも中津留の前後左右斜めに至るまでどこも空いとらんから久留島さんはあそこ使ってね」
担任の山際がふっくらと肉づいた手で源治のいる廊下側の席から遠く離れた窓際の最後尾を指す。そこは1学期の終わりまで野球部の人間の私物置き場と化していたハズだが、転校生が来るにあたり私物を蹴散らして人ひとり分の席を設けたようだ。
指定された席に腰掛けた初華には早速彼女の前と隣に座っていた女子達が身を寄せて質問攻めをかましたが、すぐさま山際から「後でやれー」と窘められ渋々解散してしまった。
「パークで久留島さんが勧誘に引っかかってたのを、中津留が見つけて助けたらしいよ」
平常よりも遥かに早く放課後を迎えた教室の中で、源治と初華の出会いに関わるエピソードは瞬く間に拡散された。
「中津留かっこいー!感動したー!」
「デカい図体の有効活用」
「パークにいる勧誘しつこいもんね」
「あそこの人達チャラいし久留島さん自体を狙っとったんやねん」
源治への称賛から件のショッピングモール(正式名称:パークランド)に陣取る業者への愚痴まで様々な感想が囁かれる中、居心地の悪くなった源治が「普通のことだろ」とぶっきらぼうに返し教室を出ようとすると、突如背後から袖を引っ張られた。振り返ってみれば源治の胸元程の高さから、悩ましげな表情で源治を見上げる初華の美貌。
「私も中津留くんと一緒に帰っていいかな…?」
躊躇いがちに尋ねる初華に源治は戸惑い『何故?』『どんな気持ちで言ってんの?』『これ以上事を大きくしてどうする?』と頭に多くの疑問を浮かべながらも、その口は自然と返事を発していた。「是非とも」と。
「源治お前!俺と飯行くっつったじゃん!」
さっきまで群衆に交ざり源治を冷やかしていた颯太が鞄を持って立ち上がった。源治と颯太は昨晩にLINEで昼食を共にする約束をしていたのだ。
「あ、そうか」
「そうだよ!それともアレか!?久留島さんも混ぜるか!?俺は良いぞ!?」
「久留島さん行くならウチらも混ざっていい?」
憤慨しているのか興奮しているのかわからない颯太の前に、お揃いのショルダー型スクールバッグを携えた3人組の女子が興味津々そうな様子で歩み寄ってきた。ロングストレートをアッシュピンクに染めた赤嶺紫杏(あかみね しあん)、シースルーバングと位置の低いツインテールが鉄板スタイルの財前恵(ざいぜん めぐみ)、そして紫杏に引っ張られてきたらしい姫野マナカだ。
「まだ全然久留島さんと喋ってないし」
ブラウンのアイシャドウを塗りたくったツリ目で初華を見やる紫杏。
源治はこの紫杏という少女を幼い頃から知っているが、親が金持ちなのか常に全身をアパレルブランドで固め、彼氏の自慢をするか「何組の誰々は誰々のことが好きだ」とかいう事実なのかもわからないような他人の色恋話を吹き込むか気に入らない人間の悪口を垂れ流すかする姿しか見てこなかったのでこの上ない苦手意識を感じている。
高校に上がりマナカとつるむようになってからは落ち着いてきたように思えるが、それでも積み上げてきたイメージは払拭できない。そのうち「美人が鼻につく」とか言って初華をいじめやしないだろうかと不安で顔を曇らせる源治をよそに颯太が「良いよ〜!」と軽い返事を返してしまい、紫杏達3人組の同行が決定してしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます