第7話・反目する二つの村〔道が無ければ氷の道を作ればいい〕

 雪原を二足歩行で移動する城巨人『エネルゲイア』内にある混浴場──ペンライトと一緒に入浴した、エンジェライトが湯気の向こうに見えるペンライトの裸体に顔を赤らめて背を向ける。

「男だったのか」

「わたくしは、気にしていませんペン」

「オレの方が気になるんだよ……これでも、フェリーの女だからな」

「そうですか」

 ペンライトは裸体を隠すようにお湯の中に、肩までつかる。

 石の浴槽の縁に腰かけたエンジェライトが、ペンライトに訊ねる。


「これから向かう、凍った湖の【勝敗村】ってどんな村なんだ?」

「湖は特殊な構造をしているので、温度差で凍結している箇所と氷が溶けて流れている箇所がありますペン。時期によっても凍結時期と解氷している時期があるペン」

「村人の方は?」

「元々は仲が悪かった【勝利村】と【敗北村】の二つを、デス家が強制的に合併させたベン……管理管轄しやすいようにペン」

「なぜ、二つの村は仲が悪いんだ?」

「それは、実際に行ってみて両村の話を聞いてみないとペン」

「ふ~ん」

 一つ目メイドのスターライトが容器に入れて持ってきて、ちょこんと浴槽の縁に置いた氷の塊にエンジェライトは抱きついて。

 火照った体を冷やすのと同時に、氷をナメながらペンライトに風呂場でピョンピョン跳ねている超科学の雪結晶錫杖について質問する。


「前から気になっていたけれど、あの錫杖どうやって動いているんだ?」

 容器に入った氷を口に含んで、ペンライトが答える。

「わたくしにも、よくわからないベン……ディライトさんの説明では、エネルギーを生み出す希少鉱石が錫杖に内蔵されていて。その鉱石の影響で、西方地域の魔物が錫杖の中に入り込んでいるかも知れない……そうだペン」


「鉱石を砕いて詳しく調べてみたら? 本当に魔物がいるのかどうか?」

「そんなコトをすれば、北方地域の半分以上が、吹っ飛んで焦土と化すそうだペン」

 ペンライトは、氷と一緒に冷やされていた果物を食べながら言った。

「翌朝には両村を見下ろす丘に、城巨人エネルゲイアは到着するペン」



 翌朝、今は強制合併させられた【勝敗村】──【勝利村】と【敗北村】の境を見下ろす小高い丘の上に、幽閉城ディナミスがあった。

 勝利村の村人が言った。

「あんな城、いつできた?」

 村人たちが不思議がっていると、ペンライトたち一行がやって来た。

 ペンライトは近くにいた、少しおどおどしている敗北村の家族に話しかける。

「少し訊ねたいコトがあるペン」 

 敗北村の住人が口を開こうとした時、横から勝利村の男が口を挟んできた。

「敗北村の負け犬は、しゃべるな!」

 男は厳しい表情で、ペンライトたちを睨みながら言った。

「あんたたち、何しにココに来た……今は湖でデス家から派遣された将軍が、何かをやっているがデス家の兵士からは『デス家に反抗する者が近づいているから、現れても相手にするな』と言われている……もしかして、あんたたちがそうなのか?」

「そうかも……知れないペン」

「だったら、速やかに村から出ていってくれ。オレたちは面倒なコトに関わりたくないんだ……湖の氷路も、デス家の恩情で通行させてもらっているからな」

「氷路?」

「凍った湖の道だ、向こう岸にある町まで。最短距離で行ける……湖の氷が半分溶ける時期には湖を小舟で渡る……今の時期は氷路が無いと村の死活問題だ、町に丸太の炭まきを買いに行けなくなる……少し長く話しすぎた、デス家の兵士に見つかる前に立ち去ってくれ」

 それだけ言うと、勝利村の者たちは去っていった。


 尖耳鉤鼻かぎばなのディライトが言った。

「ふんっ、すっかりデス家に飼い慣らされているな」

 一つ目メイドのスターライトが言った。

「どうしますか? 城にもどります?」

 ペンライトの肩に乗った、銀髪褐色肌フェリーのエンジェライトが、震えながら言った。

「その前に、暖かい部屋に入りたい……寒風に凍え死んじまう」


 残っていた敗北村の男が言った。

「良かったら、わたしの家が近いのでどうですか? 旅人にもてなすのが我が家の代々伝わる家訓なので……貧しい家ですが、暖をとるコトはできます」

 ペンライトたちは、男の家へと向かった。


 暖かい部屋で、雪トドの肉を加工した腸詰めソーセージのスライスが数切れ入った、薄いボルシチスープを皿からすすり飲んで一息ついたエンジェライトが言った。

「ふぅ、生き返ったぜ」


 ペンライトの勝利村と敗北村についての質問に、沈んだ表情の男が答える。

「二つの村は、長年に渡って抗争を繰り返してきました……勝った時は【勝利村】を名乗り、敗けて逃げた時は【敗北村】を名乗らされてきました……長年の抗争で死傷者も多く、互いの村に対する憎しみは簡単に消えません」

「争いで残るのは、過去の決して消えない。わだかまりだけだペン……湖の向こう岸にある町へ行くルートは湖を渡るルートだけペン?」


「もう一つ、険しい山道を迂回していくルートがあります。敗北村となった者たちは、その山側ルートだけを通行するコトが勝利村の連中から許されています……険しく危険な道なので、命を落とす者も多い」

 小枝を数本、暖炉の炎の中に放り込んで敗北村の男が言った。

「よろしければ。しばらく、この家に滞在お願いします……魔女さまの魔法で町までの安全な道を」

「わたくしは魔女ではないぺん……でも、この状況は見捨ててはおけないペン、湖上で作業を続けているデス家兵士の動向も気になるペンから」

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