第三章・凍てつく心と少しだけ溶けた心

第6話・犯罪卿『アルメ・ニア』派遣将軍『フリュ・ギア』

 氷河に城の半分が埋もれたデス家の『アイス・イングリッシュ城』から離れた境界の地にある。デス家所有の氷の出城でじろ──その冷たき城の部屋に、一人の男装女性が椅子に座りテープルの上に広げた地図を眺めていた。

 地図の上には、チェスの駒のようなモノが置かれていた。

 ショートヘアの男装女性は、城の形をした駒を移動させて呟く。

「動き出したか……世論操作をすれば、民衆の心は簡単に誘導できる」

 男装女性の名前は──犯罪卿『アルメ・ニア』デス家側の陣営メンバー。

「さて、どう出てくるかな……男娘おとこのこの魔女皇女は」


 ニアが少し楽しそうな笑みを浮かべながら地図を眺めていると、一人の若い男性が氷の部屋に入ってきた。

 フェスラインに沿って、薄く短めのヒゲを生やし。

 短いマントを着たイケメン男だった。

 手の手には、片手半剣バスタードソードの長剣が握られている。

 男の持っている剣の柄頭には、半球体の透明なカプセルが付いていて。

 カプセルの中には小動物の脳が、樹脂に包まれて入っていた。

 男は長剣の柄頭を目の高さに持ち上げると、小動物の脳に男装女性を見せているような口調で言った。

「母さん、あれが母親違いの妹のニアだよ……ピョン」

 小動物の脳を母親だと言う、少し危ない感覚のイケメンヒゲ男性の名は──デス家陣営メンバー、派遣将軍『フリュ・ギア』

 剣の腕前はからっきしだが、戦略には長けている。


 ニアが母親違いで貴族の家系で育った、兄に言った。

「お兄ちゃん……剣は腰の帯に差して持ち運びした方がいいよ。

よくお母さん、置き忘れているから……この間なんかトイレで、お母さん凍っていたよ」

「あの時は……うっかり置いてきてしまった……ピョン、ごめん母さんピョン」

 貴族として育てられたギアの祝福語尾は、ピョンだった。

 ギアは鞘に入った長剣を、氷の床に突き刺して立てる。


 ニアが言った。

「城の巨人が動き出したよ……まさか、預言されていた通りに城が動くなんて……魔女皇女『イザーヤ・ペンライト』我らデス家陣営の計画に支障をもたらす者」

「相手にとって不足なしだピョン」

「念のために言っておくけれど、ペンライトは一見女に見えるけれど男だから……声も女声だから騙されないで」

「大丈夫だピョン、男を誘惑したりしないピョン」

「本当かなぁ」


 アルメ・ニアは地図上にある駒を少し動かす。

「お兄ちゃんが戦略を進めている、凍った湖の村の様子はどう? 【勝敗村】の連中はちゃんと仲たがいしているかな?」

「問題ないピョン」


 ギアの下顎から鋭い毒牙がニュッと出てくる。

 牙を歯肉の下に押し込め隠してギアが言った。

「そう言えば昔、西方地域に小旅行をした時に、水を飲ませてもらうために立ち寄った民家の中から出てきた──花嫁姿の女性の首筋に思わずムラムラして噛みついてしまったが……あの女性、どうなったかピョン?」

「お兄ちゃん、その毒牙は引っ込めて隠していた方がいいよ。

西方地域になんて滅多に行かないから、その娘死んだんじゃない……」


 その時、氷の部屋に敷物を持ったメイドが入ってきて言った。

「床の敷物を交換します」

 ペリペリと、氷の床に張りついた敷物を剥がしている、黒髪で長髪のメイドにニアが言った。

「ボク称を忘れている……ボクって言いなさい、言い直し」

 メイドは唇を震わせながら言った。

「ボ、ボクが……床の敷物を交換します」

 悦に入った表情をするニア。

 ニアは容姿に関係なく『ボクっ』が、好きな性癖をしていた。


 前髪を指でいじくりながらニアが呟く。

「あたしは、キリル・キルさまの『北方地域を支配管轄して、若い男たちをデス・ウィズ女王さまが生前、身分違いで恋愛成就しなかった男の姿に変えてデス・ウィズさまの叶わなかった恋の願いを叶える』というのには賛同はしていないけれど【北方地域の支配】には興味があるから協力しているだけ」


 ギアが言った。

「それじゃあ、オレは凍りついた湖の勝敗村に向かうとするピョン……イザーヤ・ペンライトに出会えるのが楽しみだピョン」

 そう言うと、ギアは長剣を氷の床に刺したまま、部屋を出ていった。


 ギアがいなくなると、前髪をいじくりながらニアが呟いた。

「人間の繁殖に愛は不要」

 チラッとメイドに同意を求める視線を送るアルメ・ニア。

 メイドが慌てて言った。

「ボ、ボクも人間の繁殖に愛は不要だと思います」

 その時、少し照れながら部屋に引き返してきたギアが、床に刺したままの長剣を引き抜いて言った。

「てへっ、母さん忘れちゃったピョン」

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