エピローグ

第350話 ミライとの生活は今日も

「おはよ、ミライ」


 半開きの目をこすりながらリビングに入り、キッチンで朝食の準備をしてくれているミライに声をかける。


「おはようございます、誠道さん。もう少しなのでちょっとお待ちください」


「わかった」


 ソファに座って軽く背伸びをする。


 漂っている焼き魚の香ばしさが胃を心地よく刺激してきた。


 フェニックスハイランドでミライに告白し、晴れて彼氏彼女となってから一週間。


 俺は相も変わらずグランダラで、優雅で快適な引きこもり生活を送っている。


 ミライは相変わらずゴブリンの睾丸に執着したり、借金に執着したり、かと思えばこうしておいしいご飯を作ったりしている。


 なにかが変わったような気もするし、なにも変わらない気もするこの日常。


 本当に幸せだ。


 ミライのおかげで、俺は大切なものをたくさん知ることができた。


「……あっ、そういや、あのお金はどうしたんだ?」


「あのお金?」


「あれだよ。オムツおじさん捜索のお礼にマダムさんからもらったやつ」


 あのお金はたしか、ミライが『私たちのために使います』って言ったきり行方不明になっていた。


 いろいろありすぎて今の今まで忘れていた。


 俺たちの借金を少しでも返してくれていたら嬉しいんだけど。


「ああ、あのお金ですか」


 包丁で卵焼きを切っていたミライが振り向いて、軽く胸を張る。


「それはもちろん。報酬としてリトさんと創流御さんに渡しました」


「……は?」


「いやぁ、本当にぎりぎりの戦いでした。そんなにはもらえないよと値切ってくるリトさん、創流御さん派閥と、面倒なので全部報酬として渡そうとするミライ派閥の、後世に残る戦い。第二の関ケ原と呼んでも過言ではないくらいの」


「過言すぎるくらい籠んだよ! 全部無償だって、みんな無償で協力って言ったじゃん!」


「リトさんと創流御さんとは初対面でしたよね? さすがにあのお二方は無償では動いてくれませんよ」


「……まあそれもそうか」


 確かにミライの言う通りか。


 アテウ・マークやゲンシドラゴンの製作費もバカにならなかったはずだし……あれ? 


 そう考えたら創流御さんにお金を支払うのは納得としても、あの禿げ散らかしたおじさんリト・ディアには……人件費ってことになるのか。


 そう考えて納得しよう。


「はい。労働に見合った対価を支払う。当たり前のことです。まあ親密なら、そこに付け込んで無償で協力してもらうこともできるんですが」


「あれ? あっちではみんなとの友情に感動してたけど、俺たちって知り合いの絵師に無償でなにか頼むクソみたいな友達になりさが」


「気にしちゃだめです。それが友達というものですから」


「友達だからこそ気にするんだろうが!」


 みんな、今回のことで失望して友達辞めるとか言わないでね!


 無言でブロックとかミュートとかされてたら悲しすぎるから!


 ……って、ん?


「ってなんでミライが値切らないんだよ! なんでリトさんと創流御さんが値切ってんだよ!」


 危ない、スルーするところだった。


 面倒だから全額渡すって、よく考えなくても意味不明じゃないか!


「まあまあ、そんなことよりも、誠道さん」


 あ、大事なことなのに完全にスルーされちゃったよ。


 でも、この展開はもしかして…………。


 もったいぶるミライの姿を見てワクワクしている自分に気がつき、俺も随分ミライに侵食されたんだなぁと嬉しくなる。


「朝食を終えたら、ちょっとご相談があります」


 さて、今日はいったいどんな相談をされるのやら。


 ミライと一緒の引きこもり生活は、今日も波乱の一日になりそうだ。




 


 最終章 未来のために、ミライとともに編 完



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