第317話 真実はいつも……

「え? さっきから言っていたペットってオムツおじさんのことだったんですか?」


 ミライが、かわいらしく首を傾げる。


「他に誰がいるんだよ。ってか、わかってなかったのかよ」


 マダムがペットって言ったら十中八九オムツおじさんのことに決まっている。


「首輪を持っていたので、てっきり犬や猫の話かと」


 そう言ったミライは、つづけて「はっ!」となにか重大なことを察したような声を上げる。


 お金の形をしてた目が急に鋭くなって、あからさまに怒りを露わにしはじめた。


「すみませんマダムさん。申しわけありませんが、この話はお断りさせていただきます。そして、今すぐこの家から出て行ってください」


「おいなんでいきなり強気になってしかも依頼を拒否ってんだよ!」


 さっきまであんなに乗り気だったじゃないか。


 この金になる依頼は、ミライが探してきたんじゃなかったのか。


 確かに、積極的に関わりたくはないけどさ、借金が返せるんだから話は断るなよ!


「拒否するに決まってるじゃないですか。だってオムツおじさんがマダムさんから逃げるはずがありません。きっとこの人が自分で捨てたんですよ」


「私が大切なペットを捨てるわけないじゃない! 一度飼い始めたなら責任をもって飼いつづけるわ! それくらいの倫理観は持ってるわよ!」


 語気を荒らげるマダムさん。


 いや、人間を飼うって言ってる時点で倫理観は崩壊してますよね?


「いえ、絶対に捨てたんです。あなたはオムツおじさんに飽きてしまった。それで、新たなペットを探してここにきた」


 ミライが俺の前に手を広げて立つ。


 まるでマダムさんから俺を守ろうとているかのように。


「あなたはオムツおじさんの代わりに、誠道さんをペットにしようとしているんです!」


 迷探偵ミライは、時計型麻酔銃を持つ子供もびっくりするほどのどや顔を浮かべながら、謎推理を展開する。


「あなたはペットがいなくなったと嘘をついて私たちに探させ、誠道さんが一人になった隙に誠道さんを拉致し、自身のペットにしようと考えている。違いますか? マダムさん!」


 ミライがピシッとマダムさんに指をさすと、マダムさんは小さくうなずいた後、高らかに笑いだした。


「なるほど。素晴らしい推理ね」


 いや、全然素晴らしくないと思うんですけど。


「でも証拠は? 証拠がないとそれはただの机上の空論なのよ」


 うわぁ、マダムさんがあからさまなフラグ作っちゃったよ。


 このセリフが出てきたってことは、ミライの言うことが正しいって言っちゃってるようなもんだからな。


 ……ってそれだと俺がマダムのペットにされちゃうじゃん!


「そうやって強がっていられるのも今の内ですよ。マダムさん」


 ミライが、完全犯罪を覆す証拠を見つけた探偵のような不敵な笑みを浮かべる。


 ……いや、なにこの空気?


 いつのまにサスペンス劇場になったの?


「アナタは今、証拠がないと言いましたね」


「ええ。その通りよ」


「本当に証拠はないんでしょうか?」


「……なにが言いたいの?」


 おっ、ミライの堂々とした演技に、マダムさんがついに狼狽えたぞ!


「往生際が悪いですよ、マダムさん」


 そう宣言したミライが、ゆっくりとマダムさんに歩み寄っていく。


 動揺するマダムさんの肩に手を置いて、勝ち誇ったように笑ってから。


「まあ証拠なら、確かにありませんが」


「ないのにそんな自慢げだったのかよ!」


 こうなるとは思っていたけどね。


 まさに迷探偵ミライ!


 期待は裏切らないね。


「ってかマダムさんもなに動揺してるんだよ! やってないならもっと自信もって否定しろよ!」


「だって、あんなに自慢げに言われたら、もしかしたらそうだったのかもって思いはじめちゃって」


「こうやって冤罪事件って産まれるんですねぇ!」


 いまのミライでさえこれなのだから、強面の警察に詰問されたら俺も耐えられる自信ないよ。


 噓の自白しちゃうよ。


 石川誠道は、一刻も早く取り調べの可視化を求めます!


「誠道さん、マダムさんにほだされないでください! これは演技です。絶対に誠道さんを狙っています!」


 ミライはまだマダムさんに疑いの目を向けている。


「でも残念でしたね、マダムさん。誠道さんは私に縛られることでしか興奮できないんです! あなたのペットになんかなるはずありませんから!」


「誰に縛られても興奮しねぇわ! ってか俺は誰のペットにもならねぇわ! 前提をいいかげんに撤回しろ!」





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