第308話 万が一が、現れた

「誠道さんっ!」


 ピンク色に輝きはじめた誠道さんを見て、私が感じていたのは恐怖だった。


 誠道さんの胸に矢が刺さって死ぬのではないかという恐怖ではなく、誠道さんがほかの誰かのものになってしまうという恐怖だ。


 一応保険として、いく先々で誠道さんのネガティブキャンペーンはしていたものの、こんなどうしようもない引きこもり男に惚れてしまうような人間なんて現れるはずがないと、心のどこかで思っていた。


 誠道さんの悪評を広めていたのは、本当に万が一の可能性を考慮しただけだったのに。


 その万が一が、現れてしまった。


 そして、今まさに私の大事な誠道さんが奪われようとしている。


 女の勘が危機感を猛烈に訴えかけてくる。


「なんだ、これ……」


 誠道さんの苦しむ声が聞こえて、私は誠道さんに手を伸ばした。


「ああ、ち、くしょう……」


 しかし、誠道さんが私の手を取ることはなかった。


 ピンク色の輝きが弾け、私は目を開けていられなくなる。


 そして、次に目を開けたときには。


「……うそ」


 誠道さんはオリョウの横に立っていて、オリョウと手をつないでいた。


「誠道、さん?」


「残念ね。石川くんはもう、私の恋人よ」


 眉間に銃弾を撃ち込まれたかのように後ろによろめく。


 頭が痛い、胸が苦しい、目の奥が冷たい。


「ユーリ、そいつらは任せたわ。私は石川くんと夫婦漫才の練習をするから」


「承知いたしました」


 オリョウさんとユーリさんがなにか会話をしている。


 どうでもいい。


 ずきずきと痛みを放つ胸を押さえながら、私はその場にうずくまった。


「誠道さん! どうしてっ!」


「ミライさん危ないっ!」


 聖ちゃんの声が聞こえて顔を上げると、金属同士がぶつかる甲高い音が鳴った。


 ユーリさんの短剣での攻撃を、聖ちゃんが聖剣ジャンヌダルクを使って弾き飛ばしたところだった。


「ありがとうございます。聖ちゃん」


 私は気持ちを切り替え……られているはずがないけど立ち上がる。


 オリョウさんの隣に誠道さんがいる現実は変わらない。


 その事実が私の身も心も錆びつかせていく。


「ミライさん! 落ち込まないでください! とりあえずこの会場に【聖結界せいけっかい】を張りました。オリョウさんも誠道さんもこの場に残るしかありません!」


 ユーリさんの攻撃を防ぎながら、聖ちゃんが話してくれる。


 周囲を確認すると、客席とバトルフィールドを遮るようにようにして、薄い白色の壁のようなものが見えた。


「でも、誠道さんはもう」


「私に考えがありますっ!」


 ユーリさんを弾き飛ばした聖ちゃんが、私と聖ちゃんだけを囲むように【聖結界せいけっかい】を張った。

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