第303話 仮説、検証、結論

「だからこそ解せないのよ。あなたが私に一番惚れていてるはずなのに、魅了されているはずなのに」


「だから何度も言いますが、俺はあなたに確実に魅了されて」


「いいから黙りなさい! 視線川ねっとり道!」


 俺に変なあだ名をつけて怒鳴りつけたオリョウが、その大きな胸の間を両手で押さえる。


 いよいよヤバいぞ。


 なぜかは本当にわからないけど、相手の感情をどんどん逆撫でしてしまったみたいだ。


 なんとかしないと、本当にまずい。


「あなたはさっきから嘘ばかり。ほくろ川えっろ道くんが私に魅了されていない証拠ならちゃんとあるのよ」


「証拠……ですか」


 ってかさっきから俺の呼び方ひどすぎない?


 全部事実だから言い返せないんだけどさ。


「禁呪術、女体化支配レディースドミネーションには発動条件があってね」


 ねぇ、禁呪術なんてさらりと言わないでくれるかな。


 そうやって間接的に自分が強者であることを伝えないでよ。


 普通に怖いから!


「対象者が発動者に魅了される、つまり惚れないといけないの。だからおっぱい凝視川スカートのぞき道くんが性転換していない時点で、私に惚れていないことは確定なの」


 はぁ……なるほどね。


 そんな複雑な条件があったのか。


 でも、俺は確実にあなたに魅了されていたと思うんですが?


「絶世の美女である私からすれば、この禁呪術の発動条件をクリアするなんて、魔王軍の運営資金を着服するより容易いこと。私のために存在している禁呪術だと言っても過言ではなかった」


 オリョウが苦しそうに胸の間をかきむしりはじめる。


 その行動が、着服をしてきたことによる罪悪感に押しつぶされた故の行動だったらいいなぁ。


「これまでこの禁呪術にかからない男などいなかった。私に魅了されない男などいなかった。それがどうしてあんたみたいな引きこもりなんかが、忌まわしき前例を作るのよ!」


 顔を上げたオリョウに睨みつけられる。


「まるで私が引きこもりを魅了できないダメ女みたいじゃない!」


 その鋭い視線もまた美しくはあるが、たしかに。


 オリョウの言う通りかもしれない。


 冷静に考えてみると、オリョウのことを美しいとは思っているが、じゃあ惚れているかと言われれば、ちょっと違うかもしれない。


「そこで、私は一つの仮説を立ててみたのだけど」


 口元を歪めたオリョウがつづける。


「あなたは、私の胸をあれだけねっとりと凝視していたのに惚れなかった。あんなにあからさまにスカートの中をのぞこうとして、私にたいしてえっろ! と思ったはずなのに、私には惚れなかった」


 それはつまり!


 オリョウが大事なことを言う前の予備校教師のように声を張り上げる。


「あなたは、ただおっぱいそのものが好きなだけの変態ってことよ!」


「なんだその結論は!」


 長々と語った挙句の結論がそれかよ。


 真剣に聞いて損したわ!

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