第301話 どうして私に

「ちっ、はずしたか」


 司会の女性はボブヘアーをわずかに揺らしながら舌打ちした。


 俺はすぐに体勢を立て直し、目を鋭くしている彼女の追撃に備える。


「次は絶対に、殺す」


「いや、なんで俺が狙われなきゃなんねぇんだよ」


「うるさい黙れ!」


 一喝され、じりじりとした緊張が広がっていく。


 司会の女性の右足がわずかに下がり、そのまま地面を蹴って俺に近づこうと――


「ユーリ、待ちなさい」


 オリョウがそう言って止めたため、司会の女性――ユーリは勢い余って転び、顔面からずずっとこけた。


 なに?


 こいつらコロコロコ〇ックでもリスペクトしてんの?


「お、お言葉ですが、オリョウ様」


 立ち上がったユーリが、オリョウの方を向き直ったけど……おでこ大丈夫?


 めっちゃ赤くなってるよ?


 そして、いつの間にかオリョウは目を見開いてM字開脚という惨めな姿ではなく、凛とした立ち姿を披露していた。


「こ、こいつはあろうことかオリョウ様に唾を吐きかけ」


「それはオリョウ様が俺にツッコませるようなことを言ったせいだからな! つばを吐きかけるのが目的じゃねぇから!」


「砂場級はちょっと黙って!」


 ユーリに凄まれ、反論の言葉を失う。


「そもそもおかしいです。だって、オリョウ様が魅了できない男などこの世に存在しない。きっとこいつは男でも人間でもないんですよ! そんな異質な存在をオリョウ様に近づけるわけにはいかず、危ないと思った次第でして」


 ユーリが慌てたように早口で弁明すると、オリョウがにこりと笑った。


「ユーリ、私を心配してくれたことは感謝します。ただ、この方の処遇を決める前に、いくつか質問したいことがありますので、下がっていなさい」


「くっ、承知いたしました」


 ユーリは渋々といった感じでオリョウの後ろに控える。


「ごめんなさい。この子も悪気があったわけじゃないのよ」


 オリョウが俺に穏やかな笑みを向ける。


 ほんと、こいつはいちいち所作が絵になるなぁ。


 きっとオリョウが地球にうまれていた、白が何種類あるかを永遠と語ってくれるようなトップモデルにでもなったんだろうなぁ。


 パリコレに出演させて乳首丸出しの衣装とか着せたら……げふんげふん、あれは芸術だぞ!


 全然エロくないんだぞ!


 そういう目で見る人の方がどうかしてるんだ。


「あなた、たしか引きこもりくんと言ったかしら」


「石川誠道と言います」


 これまでのように強めにツッコめなかったのは、笑顔のオリョウから感じる謎の威圧感に体が委縮していたから。


 こいつ、全然隙がない。


 いや、さっき目玉飛び出してM字開脚して、隙ありまくりだったな。


「じゃあ、石川くん」


 オリョウの声圧が二倍にも三倍にも膨れ上がる。


「あなた、どうして私に惚れていないの? 魅了されていないの?」

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