第299話 確かに美しいけど
「それでは登場してもらいましょう! 我らが絶世の美女! ゼイ・ダッツ・オリョウ様です!」
司会が名前を叫び、舞台下の男どもが「オリョウ、オリョウ」とコールを飛ばしはじめる。
隣に描かれていた魔方陣が光り輝きはじめ、そのまばゆい光が柱となる。
その光の柱がぐにゃりと歪んだと思ったら、人の輪郭が現れた。
「うぉおおおおおお!!」
男どもの歓声が天高く舞い上がる。
花火が弾けるように光の柱が消えると、ゴールドに輝くドレスを着たボンッ・キュッ・ボンッな銀髪の女性が、黒く焦げている魔方陣の上に立っていた。
「うわぁあああああああ! あれが噂に聞く絶世の美女かぁ!」
「最高! 最高過ぎて鼻血がっ!」
「ちょっと動くたびにおっぱいがプルンプルン揺れてるぞ! 最高かよ!」
「ああ! その金髪をよく煮て出汁を取って湯船にして浸かりたいなぁ」
うん、いましゃべったやつら全員キモすぎたけど、最後のやつだけ群を抜いてキモかったぞ!
でもまあ、彼らが興奮するのも無理はない。
なぜならゼイ・ダッツ・オリョウが身につけているドレスは、彼女の大きな胸を強調させるかのごとく胸元がぱっくりと開いている。
さらに体のラインがくっきりと出るくらいぴっちりと体にはりついていた。
ここはキャバクラかなんかですか?
少し前かがみになれば中が見えるんじゃないかってくらい短いスカートから伸びる脚は程よい肉づきで、思わずサスサスしたくなるほど綺麗だ。
「あっ、いま俺に向かってオリョウがウインクしたぞ!」
「いいや俺だ、俺に向かってウインクしたんだ!」
「なにを言う! 俺に決まってるだろ!」
「ああ! 抜け落ちた一本の髪の毛が風にさらわれて! まてぇ! 聖剣オリョウレイピア!!!」
うん、舞台下の変態ども、並びに一人の超ド級の変態は無視しよう。
だって、そんなこと気にするのがもったいないくらい、オリョウが美人すぎるんだもの。
スタイルは先ほど紹介した通り最高だが、顔だってそのスタイルに引けを取らないくらい美しい。
ぱっちりとした少し切れ長の目に、薄い唇がクールな印象を与えている。
男であろうと女であろうと関係なく、百人中百人が、なんて美しい人なんだ、とすれ違う時に足を止めて振り返ることだろう。
銀色に輝く髪の毛も優雅で高貴で可憐で艶やかで、非の打ちどころがまったくない。
その容姿に嫉妬することすらできずにただただ美しいと思わされる、圧倒的な絶世の美女だ。
……でも、なんというか。
俺は興奮してわけわかんないことばかり叫んでいる舞台下の男どもを視界の端に捉えながら、冷静に自分の心と向き合っていた。
たしかに目の前のオリョウは、絶世の美女だ。
それは間違いない。
間違いないのだけど、なんかミライの方が……って思っちゃうんだよなぁ。
美人度合いでいけば、俺の個人的な意見だけど、ミライだって負けていないと思う。
そもそもどっちが綺麗か、とかの問題じゃない気もするんだよなぁ。
まあ、ブサイクもイケメンも人それぞれっていうし。
それにゼイ・ダッツ・オリョウのおっぱいがでかいことに変わりはないから、とりあえずこうして近づけていることに感謝してじっくりとおっぱいを堪能……いや、そんな暇はないんだ!
なんとかしてこいつを気絶させないといけないんだから…………でもまあ、ちょっとくらいはおっぱいを楽しむ時間はあるよね。
あ、谷間の所にほくろ見つけた!
えっろっ!
その位置のほくろえっろ!
なんて俺が思っていると。
「大会参加者の皆さま、本日はご参加いただきありがとうございます」
その美貌にお似合いの、透き通るような声が鼓膜を貫く。
オリョウが深々と一礼すると、俺も他の参加者たちも、下からのぞき込むようにして、オリョウの胸元へ熱い視線を送った。
顔を上げたオリョウは、男どもの性欲すらも優しく包み込むような笑顔を浮かべると、手をちょいちょいとして。
「皆さま。もう少し近づいてはいかがですか。この大会の覇者である石川様のお姿を目に焼きつけてください」
「マジか?」
「本人が言ってるんだから近づかないと逆に失礼にあたるぞ」
「ああ、あのおっぱいをさらに間近で見られるなんて」
「ああ! もはやオリョウの白血球になって体内に侵入してきたウィルスをやっつけてその生涯を終えたい。我が人生に一片の悔いなし!」
オリョウの言葉に導かれ、観客たちが舞台のそばに集まってくる。
もちろん俺の前ではなく、オリョウの前に……っておい!
ずるいぞ!
オリョウを至近距離で凝視できるのは優勝者の特権なんだから、そんなに近づくなよ!
なんなら俺以外の男どもは舞台下にいるから、ちょっと見上げるようにしたらオリョウのスカートの中がのぞけるんじゃないのか!
本当にずるいぞ!
それなら俺もそっちがいい!
こんなの優勝損じゃないか!
もうやってられないと、俺が勝手に舞台から飛び降りようとした、そのとき。
突然、目を開けてられなくなるほどの黒光りに包まれた。
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