第290話 初戦の相手

 そんなこんなでミライと別れ、俺は大会出場者たちが集まる控室へ向かう。


 控室にはえっちな大会名につられてエントリーした、屈強だけど情けない性獣男どもがたくさんいた。


 みんな目を吊り上げて無駄に周囲を威嚇している。


 戦う前から自分の強さを誇示しようとしているのだろう。


 …………あれ?


 これ、俺が言っていた虚勢大会論もあながち間違いじゃなかったのでは。


 しばらくして俺の名前が呼ばれ、試合会場へと向かう。


 バトルフィールドはビーチに設営された建物なので当然砂浜だ。


 そのバトルフィールドを取り囲むようにして観客席が設置されてある。


 会場は超満員で、選手が入場しただけで拍手や口笛が鳴り響く。


「おい! 負けたら承知しないからな! さっき負けたんだからここで俺は確実に取り返すんだ!」


「こんなところで負けんじゃねぇぞ! こっちは全財産賭けてんだ!」


 もちろん、この勝負はギャンブルの対象でもあるので、上記のような罵声や怒号も飛び交っている。


 そんなことより相手は……と。


 向かい側の通路から歩いてきた対戦相手を見て、心に緊張が走る。


 相手を威圧せんばかりのムキムキ筋肉を携えた、身長二メートルはあろうかという大男がそこにいた。


 肩に担ぐようにして持っているのは、大きな金属製の大槌だ。


 こいつの攻撃を食らったふりをして負けるって、なかなか難しいのでは?


 普通に攻撃を食らって負ける可能性が高いのでは?


「さて、つづいての戦いはこの二人だぁ!」


 実況席にいる男が叫ぶと、より一層の歓声がバトルフィールドに降り注がれた。


 実況の男は、大きなジェスチャーで俺の対戦相手を指さす。


「さぁ、西側から登場は、今大会の優勝候補」


 マジかよ。


 いきなりそんなやつと戦うなんて。


 屈強な男は金属製の大鎚をフィールドの上に置き、自分の筋肉を見せびらかせるため大仰に格好つけたポーズをとっている。


 いよっ!


 肩にショベルカー装備してんのかーい!


 胸板の上で大マグロさばけるだろ!


 腹筋で自然薯すり下ろせるじゃねか!


「の一人と呼ぶには実力が足りないかもしれないが、まあ運が味方すれば優勝する可能性がなくはないでおなじみの男!」


「いやそんなおなじみならいらねぇだろ! ってかどれくらい強いの? 要約すると中の上くらい?」


 あとそんなバカげた紹介されてる間も、よく恥ずかしげもなくポーズ取ったままでいられますね。


「その名も、ウンニー・ミハナサ・レーテル!」


「絶対優勝できないじゃんこいつ!」


 だって運が味方することがないんだから。

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