第278話 彼の人生に幸あれ
「とにかく、やりたくないのなら誠道さんは見ていてくださいね」
「いや、やっぱり俺もやる」
俺は仕方なくサイコロを持った。
だってさ、ミライに任せてたらろくなことにならないからね。
それに、まあ、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけこのゲームの世界に閉じ込められたって状況にテンションが上がっている自分もいるし。
「誠道さん。男のツンデレなんかに需要はありませんよ」
「うるせぇ」
悪態をつきつつ、俺はサイコロを放る。
なにがでるかな、なにがでるかな、なにがでるかな……ってこれ、笑って〇〇とものあとにやってた番組のやつだ!
懐かしいなぁ。
笑って〇〇ともが終わり、その後番組のバイ〇〇グも終わり……って、そう考えるとなんか苦しいな。
時の流れって残酷。
ああ、無情なり……。
「って、サイコロだサイコロ」
危うく懐古厨になりかけていた。
サイコロはすでに止まっており、出た目は4。
最初にしてはまずまずってとこか。
四マス進んで、到着したマスに書かれてある文字を読んでいく。
「えーっと、『初恋相手の幼なじみが、クラスのクズイケメン(女の前だけで優しい)とつき合いはじめた。ショックで散在する』」
……。
…………。
やばい。
別に経験したことはないけど、なんか心が痛い。
涙が出そうだ。
しかもいきなりマイナスのマスみたいだし……まあ、でも仕方ない。
これはショックすぎる出来事だからね。
「なにやってるんですか誠道さん! そもそも誠道さんが幼なじみと結ばれる運命なんてないんですから、そんなことでショック受けて散財しないでください!」
「マス目に書かれてるんだからしょうがないだろ! ……って」
俺はようやく気がついた。
「なぁ、ミライ」
「はい」
「俺、いまお金持ってないんだけど」
つまり、俺は散在する金がない。
「ってことはこの場合、散財するお金がないから、なにも起こらずそのまま」
「そんなわけないでしょう。お金のことを誤魔化すなんてありえません。お金にルーズな人は信頼を失い、友達や家族から見放されますよ」
「だったら俺という存在から見放されてない状況を奇跡だと思って!」
その後のミライの説明により、このゲームで抱えた負債分は、ゲーム終了時に創流雅楽太への借金となることを知った。
元の世界への帰還とともに、借用書も一緒に帰還するそうだ。
「ああんっ! このゲームで勝ったら私たちの借金が減り、負けてもそれは創流雅さんへの借金、つまり私の推しクリエイターに直接貢ぐことができる。なんて素晴らしいんでしょう。これが最近はやりの推し活! 推しを武道館に行かせたいファンってこんなに幸せに包まれていたんですね」
「いますぐ本物の推し活者に謝って! ミライのはただの依存症によるドーパミンの過剰分泌だから!」
そして、ミライのターン。
出た目は6。
少しだけ自慢げに俺の横を通りすぎ、二つ前で止まった彼女のマスに書かれていたのは。
『引きこもり矯正プログラム詐欺に合う』
「ちっ、誠道さんが引きこもりじゃなければ、こんな詐欺に引っかかって、散財することなかったのに」
「マス目に書かれてるだけだよね? 人のせいにしないでくれるかな?」
「私は誠道さんのためを思って申し込んだんですよ?」
「引きこもりの子どもとの関わり方間違ってる親と同じセリフ言うな!」
今度は俺の番だ。
とりあえずに2だけは出さないようにしよう。
確定散財マスだからな……って、いま思ったけどなんで散財って言葉なんだろう。
ちょっとキザな表現使ってるんだろう。
創流雅楽太は混沌とか茫漠とかいう言葉が大好きな厨二病なのか?
そんなことを考えながらサイコロを振ると、出た目はまた4。
サイコロの目通り4マス進んで、書かれている文字を読む。
「今度は、えーっと、『クラスのクズイケメンから、幼なじみとのセックスの感想を聞かされる。ショックで散在する』。……ふざけんな! なんでストーリー仕立てになったんだよ! こいつ不幸すぎだろ!」
幼なじみを取られた挙句、こんな残酷な仕打ちまで受けるなんて。
可哀想にも程がある。
もしこいつがショックで引きこもりになっても、俺は仕方ないと思うよ。
「なんで散財してるんですか! その状況はドM的にはむしろ興奮でしょう!」
「なわけあるか!」
その次の俺のターン。
俺はまた4を出し、到着したマス目を見てみると。
『幼なじみが彼氏の影響でギャル化する。ショックで散在する』
だからなんだよこのゲーム。
さっきから散財ばっかりだし、モテてこなかった男子の心を的確に抉って闇堕ちさせようとするし。
これはあれだな。
俺の心がメンタルブレイクするのが先か、ゴールするのが先か。
これってそういう意味でのデスゲームなんですね!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます