第185話 マーズはマーズ
一方そのころ。
誠道たちと別れて情報収集をしてい氷の大魔法使い、マーズ・シィは猫族の里の質屋にきていた。
「こちらのビリビリ椅子は……七十万リスズですが、いかがでしょうか?」
「それでいいわ」
マーズが断腸の思いでビリビリ器具を売却したのにはわけがある。
「さようなら、私のビリビリ椅子ちゃん。どうか幸せになってね」
マーズはお金を受け取るとすぐに里の服屋にいき、高級な素材でできた服を次々に購入して重ね着していく。
「お、お客様。本当に全部着ていかれるのですか?」
「もちろんよ」
戸惑う店員を尻目に、マーズは七十万リスズをすべて使い切った。
そして買った服はすべて重ね着。
いまのミライは体重百キロ越えの巨漢のように見える。
「あ、ありがとうございました」
声をひきつらせている店員に見送られ、マーズは店を後にする。
「さすがに買いすぎたかしら。ちょっと歩きにくいわね」
だが後悔はしていないマーズ。
この歩きづらさも周りからの冷たい視線も、マーズにとっては悦びでしかない。
これから闘う魔物は、身ぐるみを剥ぐことで有名だ。
なのに服を一枚しか着てないなんてもったいない。
身ぐるみを剥がされるなんてご褒美、堪能し尽くさないと。
楽しんだ後で倒すにしても、その過程ではとことん利用しないと損だ。
マーズは思わず気持ち悪い笑みをこぼしてしまう。
彼女はそんなことのために――マーズにとってはこの世で最も大切な我が子――ビリビリ椅子を売って、そのお金をすべて服に注ぎ込んだのだ。
「……っと、メインの目的がすんだから、あとは情報収集ね」
ま、でもこの私がいたら正直楽勝だろうけれど、とマーズが余裕の笑みを浮かべたときだった。
「あれは、ハクナさん?」
遠くの方に、キョロキョロしながら歩いていくハクナさんの姿を見つけた。
不治の病にかかっているのに出かけていいの? と少し訝しむ。
「そういえば……昨日も村の外まで出ていたし、いいのかしら」
ハクナさんはコハクちゃんを心配して村の外にでていたから、村の中を歩くくらいなんともないのかもしれない。
でもコハクちゃんは外出を咎めるようなことを言った。
ハクナさんもすぐに咳き込んで体調を崩してしまった。
――それに。
周囲をキョロキョロとしながら歩くハクナさんの様子に違和感を抱いて、マーズはハクナさんの後をこっそりつけることにした。
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