第183話 どうしてここにあいつが

 意気消沈したホクトたちは、本当に小さな声で虎のモンスターの情報を話してくれた。


 体長四メートルはくだらない、真っ白なトラのモンスターだということ。


 夜にならないと姿を見せず、なおかつ金目の物をわかるように身につけている人間の前にしか現れないこと。


 そして、現れるときはなんの前触れも見せずに忽然と姿を現すそうだ。


 ホクトたちもモンスターの存在に気がついたときにはときすでに遅く、目の前まで接近されていたそうだ。


「俺たちが振り返ったときには、もうあいつがそこにいた。場所は里の南にある平原で、ところどころにごつごつした岩はあったけど、あんな巨大なモンスターが隠れられそうな大きさじゃなかった」


 そして、ものの数秒で気絶させられ、気がついたらベッドの上にいて、お金も防具も武器もすべて奪われた後だったらしい。


「ミライ、どう思う?」


 俺たちは病院を後にして、先ほどの広場に戻ってきてベンチに腰掛けている。


「そうですね」


 ミライは深刻そうな顔をして、じっと考え込む。


「ホクトさんは家業をつぐにしても、まずは怪我を治した方がいいですよね」


「ホクトたちを心配してるんじゃねぇんだよ!」


「誠道さん、それは薄情すぎます! 誠道さんが煽ったせいでホクトさんたちは冒険者としての自信を失ったんですよ?」


「だから俺は煽ってねぇ!」


 さっきから責任を人に押しつけやがって。


「ってか俺が聞きたかったのは、虎のモンスターのことだから」


「ああ、そっちですか」


「いや。そっち以外になにもなかったと思うけど?」


「突然現れた、とおっしゃっていましたから」


 ミライは顎に手を当てて少し考え。


「おそらく夜の闇に紛れられる技や、透明になれる、はたまた体の大きさを変更できる、等の可能性が考えられますね」


「……透明、か」


 もしかすると、意外と厄介な敵なのかもしれない。


 いや、厄介だからこそ、これまで討伐されてこなかったのか。


 これはいよいよ気を引き締めないと、楽勝だなんて思って過信していたら、本当にやられるかもしれない。


「誠道さん。『透明』という言葉を真剣に呟いて……なにをそんなに羨ましがっているんですか?」


「は?」


「そりゃあ透明化は男のロマンでしょうけど、のぞきは犯罪ですよ」


「ばばばば、バカ言え! そんなの微塵も思ってないわ!」


 逆にミライが指摘したせいでちょっといいなぁって思っちゃったわ!


「とにかく、俺たちも情報収集をつづけよう。情報は少しでも多い方がいい」


「そうですね」


 俺たちはベンチから立ち上がり、トラ型モンスターの情報を更に集めるべく、猫族の里を歩き回っていたら。


「……あれは、えっ? 心出?」


 里の正門近くの路肩で、うなだれるようにして座っている七三分け黒縁眼鏡真面目男、心出皇帝を見つけた。


 隣を見ると、ミライも心出をじっと見つめている。


 口がぽかんと開いているので、俺と同じく驚いているのだろう。

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