第154話 久しぶりの膝枕

「なぁ、ミライ」


「なんですか。ってかちょっと笑ってません? 私は真剣なんです」


「それはすまん。でもさ、とりあえずこのまま会話するのやめない? ちょっとだけなら体を持ち上げられそうだから、俺の下から這いずり出てくれ」


「わかりました」


 ミライがずるずると俺の下から這いずり出る。


 そのまま話してもよかったのだが、勘違いをしているミライのために、あのときの気持ちを思い出してもらいたくて――というより俺がそうしてもらいたくて。


「それでさ。……膝枕、お願いしてもいいか?」


「え、あ、……あの…………はい」


 ポッと頬を赤らめたミライが俺の頭を持ち上げ、正座した足をその下に滑り込ませる。


「なんだか、あのときを思い出しますね」


「……だろ」


 それから俺は目を閉じて、三回深呼吸をした。


 ミライの膝枕は本当に落ち着く。


「誠道さんって、私に膝枕されていると本当に幸せそうですね」


 俺の頭を優しくなでてくれるミライ。


 俺は目を閉じたまま、顔が熱くなるのを感じながら口を開いた。


「だって俺が強くなりたいのは、強くなってミライを守りたいからなんだ。だから、俺のそばからミライがいなくなったら、ミライを守れなくなるから、強くなる意味もないんだよ」


 頭をなでるミライの手が止まる。


「それをミライはわかっていない。これからミライは、それをちゃんとわかってくれ」


 ううう、すげぇ恥ずかしいけど、膝枕をされているとミライとひとつになれている気がして、ついつい口が滑っちゃうんだよなぁ。


 最高の寝心地というか、穏やかな時間というか、とにかく俺はミライの膝枕がすごく好きだ。


「誠道さん。もったいないお言葉、ありがとうございます」


「いいって。それにミライは充分俺の力になってる。毎日起こしてくれて、毎日おいしいご飯を作ってくれて、毎日俺のそばにいてくれる。日本で引きこもっていたときには考えられないくらい騒々しくて、驚きでいっぱいで、ちょっと強引で自分勝手で迷惑なところもあるけど、すごく毎日が楽しくなった。引きこもりには腫物を触るような扱い方よりも、これくらい雑な扱いがちょうどいいんだよ」


 俺はちらっと片目だけ開けてミライを見る。


 彼女は口を手で押さえていた。


 目からぽろぽろと大粒の涙を流しており、その温かな涙が俺の頬に落ちてきた。


「誠道さんっ、ほんっとうに、ありがとうございます」


「なんだよ、そんなに泣くことか?」


「私も誠道さんと一緒にいられて、毎日とても楽しいです。幸せです」


「じゃあ俺たちは互いの幸せのために一緒にいるべきだから、もう勝手に離れたりしないでくれよ。今度は俺に守らせてくれよ」


「はい。どこまでもお供いたします」


 ミライの涙はいつまでも俺の頬に落ちつづけていた。






「スキル【新偉人ニート】の所有者が、本当に守りたいものを獲得しました。特殊条件を満たしたため、【盾篭龍たてこもり】を習得しました」

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