第147話 全力だよ

「それじゃあ皇帝さん! 俺の全力のドーピング、受け取ってくださいね!」


 五升が叫ぶ。


 ってかそもそもこの状況でどうやってドーピングを?


 そもそもこの世界のドーピングって?


 俺は五升に注目する。


 五升は大きく息を吸い込んで、心出に向けて言葉を放った。


「皇帝さんは説明できないけどなんとなく格好いい!」


「なにをするかと思えば、超うっすい言葉であからさまに胡麻をすっただけじゃねぇか!」


 せめて全力で胡麻をすれよ!


「光聖志も、そこはかとなく格好いい!」


「だから言葉が薄いんだよぉ!」


「真枝務がお年寄りを助けているのを見て、俺もあんなふうになりたいなって実は尊敬している!」


「なんで一人だけ具体的なんだよぉ!」


「そして俺、五升・リマク・李男は超イケメンで、頭も切れて、性格も最高な王子様系男子だぁあああ!」


「お前は王子じゃなくてただの超ド級のナルシストだよ! 自分のときだけ全力だすなっ!」


 しかもざまぁされる側のテンプレ嫌味王子様だよ……って。


「……え、光って、る?」


 俺は心出、光聖志、真枝務、五升の体が輝いていることに気づく。


 五升が自慢げに胸を張った。


「俺の【賛美宣言ドーピング】は、褒めた相手をパワーアップさせる効果があるんだ。もちろんそれは自分にも適応される」


「いや全然褒めてなかったよね? それで全力なら、褒める才能が壊滅的すぎるから毒舌キャラ目指せ!」


 俺がツッコむと五升は苦笑いを浮かべた。


「毒舌キャラって、ただ口が悪いだけの人をいいように解釈した気持ち悪い言葉だよな。毒舌キャラって言えばなに言っても許されると思ってる。ただの甘えだよ」


「いきなりマジレスしないで。毒舌キャラの人に毒舌吐くっていう高度なことしないで」


 まあ、五升の言うことはもっともだけどさぁ。


「たしかに自分で毒舌キャラなんて言ってる人は、ただ思いやりに欠け、プライドだけ高く、他人と比べることでしか生きる価値を見出せない人で、他人の評価を下げても自分の評価は上がらないのに毒舌って言葉が免罪符になると勘違いしているただのバカだけど、そんな残酷な事実をそんな超ド級のバカな人たちに突きつけないで」


「誠道くんの方が俺よりディスってた気がするんだけど…………ってか俺の能力、来る途中で説明したはずだよね?」


 ……そうだった。


 マーズとの戦いに備え、それぞれが使える技を共有していたのだ。


 心出と聖ちゃんのは大体知っているので割愛。


 ネコさんは固有ステータス【隠密おんみつ】の持ち主で他に自身の筋力強化もできるという。


 光聖志と真枝務は…………ごめん、忘れた。


 だってキャラ薄いんだもん。


 しょうがないよ。


 五升のキャラが強烈になりすぎたのが原因だから、二人の存在を忘れたって俺はなんにも悪くないからね。


 とりあえず、これで五升がみんなを褒めて? いった理由はわかった。


 あれで褒められたって思う心出や光聖志のバカさ――純粋さは、ある意味で尊敬する。


「おっしゃあ、いくぞお前ら!」


「「「はい! 皇帝さん」」」


 五升の【賛美宣言ドーピング】でパワーアップした四人が、氷の巨兵に向かって走り出す。


「心出とやら、頑張るのにゃぞ」


「わかりましたー! うぉおおお! これで俺は元気百万ボルド倍だぁ!」


「なんかネコさんの声援の方が【賛美宣言ドーピング】より効果ある気がするんですけど!」


「喰らいやがれ! 【蒸壊葬乱ジョウガイホームラン】ッ!!」


 心出が叫ぶと同時に表れた紫色のバッドでフルスイングをかますと、殴打部分がジュウと焼けたような音を発した。


 それを見て、マーズが「ほぉ」と声を漏らす。


「少しはできるようね。だけど、誰も一体だけとは言っていないの。出てきなさい。【氷の巨兵アイスゴーレム】」


 マーズがそう告げると、氷の巨兵がもう一体出現する。


 そいつらから漂う冷気のせいか体感温度が急激に下がり、思わず身震いした。

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