第139話 聖聖聖なる子
「誰って、それは……」
たしかにそうだ。
こいつのことをなんと説明しよう――いや、正直に話せばいいんだ。
勝手に家に入ってきて、なぜか一緒に行動している泥棒猫又だと。
「そちこそ誰にゃ?」
俺が説明を始める前に、猫又さんがしゃべりはじめた。
しかも、いたずらを思いついた子供のような笑みを浮かべて。
「誰って……私は誠道さんの……」
「知らない人のはずにゃ。さっきお前が自分で言っておったのにゃ」
「それはっ! ……私が誠道さんのそばにいると」
「関係のないやつは話しかけないでほしいのにゃ」
そう言った猫又さんは、俺の腕にむぎゅぅと抱きついてきた。
ミライのこめかみがピクリと動く。
「あー、そうですかそうですか。誠道さんの好みはよくわかりました。私がいない隙に女を連れ込んで…………私がどんな思いで他人のフリをしようと思ったか…………バカ! バカバカバカッ!」
ミライは勢いよく立ち上がると、一目散に立ち去った。
「あ、待っ……」
伸ばそうとした手を、猫又さんに掴まれる。
「よすのにゃ」
「でも、ミライが、いかないと」
「いってどうするのにゃ?」
猫又さんの口調が鋭くなる。
「それは、追いかけて……その……やっぱり追いかけないと」
俺はミライの居場所を知るために、心の中で「【探索】」と唱える。
「……あれ、なんで」
さっきは頭の中にはっきりと浮かんできたミライの現在地が、いまはまったく浮かばない。
「……まさか」
そういえば、女神様は言っていた。
ミライには自我があるから、プライベートを守るために【探索】スイッチをON、OFFできるようにしてやろう、と。
「ミライ……」
そうとしか考えられない。
ミライが【探索】スイッチをOFFにしたのだ。
「どうしたら……」
とりあえず急いで図書館の外に出てみるが、もうミライはどこにもいない。
目の前を歩いている人に「ビンゾコ眼鏡でおさげの女の子見ませんでしたか?」と聞くが、誰も知らないという。
「くそぉ、どこにいったんだよ、ミライのやつ」
「そんなに焦らにゃくてもよかろう」
俺の背中をポンとたたいたのは猫又さんだ。
「あんな風に去っていったのにゃ。いまは会いたくないってことじゃないのかにゃ」
「それは……ってか猫又さんが煽るようなことを言うから」
「なーくん」
猫又さんが俺の言葉を明確な圧を持って遮る。
俺の前にと手てと回り込んで、上目遣いで見つめてくる。
「あの女ことは大丈夫にゃ」
「大丈夫って……」
「そんなことより、これからどうするのにゃ」
「だからミライを」
「我がおるのにゃ」
猫又さんが正面から、その大きな胸を押しつけるようにして抱き着いてくる。
火照った顔で俺の顔をじっと見つめてくる。
「あんなやつのことなんか放っておいて、我と二人で存分に楽しむのにゃ」
「ミライをあんなやつなんて言うな!」
俺は猫又さんを突き飛ばしていた。
猫又さんが後方によろめく。
「ミライは、あんなやつなんかじゃない。ミライは……ミライは、俺にとって大事な」
「そうであっても、いまは我と愉しめばよいのにゃ。あやつのことなんか、すぐに忘れさせてやるのにゃ」
猫又さんが俺の手を取り、引っ張っていこうとしたそのとき。
「あれ、誠道さんじゃないですか。どうしたんですか。こんなところで」
声をかけられ、振り返るとそこには満足げな顔をした聖ちゃんがいた。
「……って、誠道さん。その子の手、離さないでくださいっ!」
「離すなって、えっ?」
言われるがまま俺は猫又さんの手を強く握る。
猫又さんはなにがなんだかわからないといった様子で聖ちゃんの方を見ていた。
「悪しきものよ。正しき存在へと戻りなさい。【
俺たちの元へ走ってきた聖ちゃんが、猫又さんに抱き着いてそう叫ぶ。
「うにゃあああああああああ!」
猫又さんは悲鳴をあげたあと、聖ちゃんの腕の中でことりと意識を失った。
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