第137話 受付嬢の災難
俺たちは街の図書館にきていた。
……あ、もちろん首輪もリードもしてないよ。
普通に二人で歩いてきたよ。
なぜ俺が図書館にきたかというと、それはマーズ・シィについて調べるため。
オムツおじさんが言っていたことがずっと気になっていたのだ。
――私にはあの子からMの悲鳴が聞こえたのでな。
たしかにオムツおじさんはそう言っていた。
元悪魔国四天王の一人であるマーズ・シィからMの悲鳴が聞こえる。
まずMの悲鳴というのがわからない。
マーズが対象者じゃなければマゾのMで確定なのだが、マーズはドSだ。
となると、このMは他の言葉の頭文字である可能性が高い。
マーズはかつて氷の大魔法使いで、しかも悪魔国の四天王だった女性。
年齢を聞いていないから定かではないが、彼女はリッチー、つまり不死だから百年以上生きている可能性は十分にある。
彼女が参加した戦いの記録とか彼女が残した伝説とか、なにかしらの記録が残っていてもおかしくはない。
そう思って、こうして図書館へやってきたというわけだ。
それに、どうもミライもここにいるらしいし。
ミライ側の【探索】スイッチがオンになったままだったので、調べてみたらここにいた。
「にしても、やっぱすげぇな。貴族気分が味わえそうだよ」
グランダラの図書館は、ヨーロッパの豪華な宮殿のような建物だ。
この街の象徴でもある。
世界中から数多くの本がここに集められるそうで、中にはたくさんの本が所狭しと並んでいる。
「……ん、なんか受付が騒がしいな」
目当ての本を探そうとした矢先、なにやら受付が騒がしいことに気づいた。
クレーマーか?
お客様は神様だって勘違いしてるやつはどんな世界にもいるんだな。
どんなずる賢そうなツラしてんだろうと心の中で笑いつつ、なんの気なしにそちらを見ると。
「申しわけありません。そちらをこの図書館に置くことはできません」
「どうしてですかっ? この『ぐちゃぐちゃ道の極め方!』は流行の最先端を行く予定なんです。こっちの『続、私はこれでぐちゃりを極めた』はあの大人気シリーズの続編です! それからそれから……」
うん、見なかったことにして立ち去ろう。
ってかぐちゃぐちゃ道は絶対に流行の最先端にはならないと思う。
あと、第一巻目を誰も知らないのに続編なんか作るなよ。
受付のお姉さん、頑張ってね。
俺はものすごい勢いで受付嬢に迫る聖ちゃんを華麗にスルーして、マーズ・シィに関する本を探し始めようと。
「なんにゃあの子は? ぐちゃぐちゃ道とはいったいなんにゃ? そんなものが流行っておるのかにゃ?」
「いいえまったくこれっぽっちもはやってません」
「でも我はものすごく興味をそそられたのにゃ。ドS心にピカーンときたのにゃ」
「絶対にそそられないで! ピカーンも早く消灯させて!」
俺は名残惜しそうに聖ちゃんを見る猫又さんの背中を押してその場を立ち去る。
やっぱりこの猫又さんは正真正銘のドSだぁ。
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