第127話 趣味は芸術鑑賞
「ってかなんでお前は俺たちを攫ったんだよ!」
この女――マーズは自分のことをリッチーだと名乗った。
リッチー。
日本にいたときにゲームで戦った経験がある。
物語の終盤あたりに出てくる、なんならラスボスだったことも、隠しダンジョンのボスだったこともある、めっちゃ強い魔法使いだ。
彼女の要求を聞いてみて、戦わずに穏便に済ませられるなら、その方がいい。
「そんなの、決まっているでしょう」
マーズはまた足を組み替えてから、俺を指さす。
それ、さっきから中が見えそうなのでもっと頻繁にやってください!
「あなたが、私が長年かけて開発したMレーダーに反応したのよ」
「え、えむれーだー?」
まったく、嫌な言葉の並びだぜ。
「まさか、そのMってマゾヒストのMじゃないですよね?」
「その通りよ。私は、私の従順なペットになってくれる可愛いドMの男を探していたの」
「ふざけんな! なんでそれに俺が選ばれるんだよ!」
「だからMレーダーの反応と……あなたが棍浴で叩かれているときに見せた気持ちよさそうな表情から」
「気持ちよくなんかなってねぇから!」
「嘘をついても無駄。あなたたちの会話からもうわかっているんだから。あなたはそこの女性に可愛がられているドMの」
「全部誤解だから! あんたの勝手な妄想だから」
「御託はいいから早く私に調教されなさいっ! 【
マーズが杖を軽く一振りすると、氷でできた鎖が現れ、俺に向かって伸びてきた。
「誠道さんっ! しゃがんでください!」
ミライの声がして咄嗟にしゃがむ。
俺の頭の上をミライの鞭が伸びていき、マーズが作った鎖をはじき飛ばした。
「誠道さん。この人は言ってはいけないことを口にしました」
おお、いつになくミライが怒っているぞ。
「誠道さんのご主人様の座は誰にも渡しませんからっ!」
「ミライのペットになった覚えはないんですけど!」
「そもそも誠道さんは私以外に縛られても興奮しません!」
「ミライに縛られても興奮しませんから!」
きちっと訂正しておく。
怒っているミライには聞こえていないかもしれないけどね。
「ふふふ。かわいいメイドさん。あなたなんにもわかってないのね。この人はあなたに縛られても興奮しないんですって」
「私は誠道さんのことならなんでもお見通しです。誠道さんは恥ずかしがっているだけです。デタラメ言わないでください」
いや、普通にマーズさんの方が正しいけど。
なんでもお見通ししてくれたこと、一度でもあったかな?
出会って数分の人に、メイドがご主人様のことで負けるのはいかがなものでしょうか。
「誠道さんは、女優の濡れ場がある映画を見るのが趣味だったんです! 裸目当てなのに、芸術だからと格好つけていたのです!」
「なんでそれはお見通しできてんの!」
あのクソ女神リスズが教えやがったんだな絶対に!
そこから、ミライとマーズの激しい戦いが――――繰り広げられなかった。
「……え? なに、これ?」
ミライが困惑の声を上げる。
すでに、ミライは透明な壁に四方を囲まれて出られなくなっていた。
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