第120話 とある人物との再会②

 フーユインの街は活気にあふれていた。街のメインストリートは大勢の観光客でひしめき合っており、道の両サイドには観光客を対象にしたお店がずらりと並んでいる。


「おっ、浴衣で歩いてる人もいるなぁ。さすが温泉街」


 俺とミライはメインストリートを歩きながら、おいしそうな食べ物がないか物色していた。


 すぐに、多くの観光客が行列を形成している店を発見する。


 観光客がいるということは、その店は外れではないという証拠。 


 俺たちもその行列に加わり、待つこと十五分。


「ようやくだな。でも、いったいなんの店だろう」


「人が多くて看板は見えませんでしたが、これだけ並んでいるので味の心配はいらないと思います」


「だな」


 うなずいたあと、とりあえず店主におすすめを聞こうと。


「すみませーん。この店のおすすめを」


「おすすめはこのユニコー……の角の丸焼きですね! って誠道くん! ミライさん! どうしてここに?」


「え? もしかしてイツモフさん?」


 その屋台の店主は、金の亡者こと、イツモフ・ザケテイルさんだった。


「僕もいるよ」


 そして、彼女の後ろからひょこっとジツハフ・ザケテイルくんが顔を出す。


「僕たち、出稼ぎにここまできたんだ」


「そっか。俺たちはつかの間の休息で、こんよ――温泉を楽しもうと」


 ……って、イツモフさんの屋台?


 その事実に気づいたとたん、俺の脳内は嫌な予感で埋め尽くされた。


「なぁ、イツモフさん」


「ん? どうかしましたか? 誠道くん」


「この店のおすすめの商品を、もう一度教えてくれないか?」


「いいですよ。この店のおすすめは、ずばりユニコー……の角の丸焼きです!」


「おいぼかすな! ユニコー……って言うな! 『ン』なのか『ソ』なのかはっきりしろ!」


「誠道くん。世の中にはグレーにしておいた方がいいこともあるんですよ」


「グレーっていうか真っ黒な! そもそもその返答はすでに真っ黒な人しか言わないから!」


「え? ユニコー……の角の丸焼きは焦げてるくらいがちょうどいいんですよ」


「こげの黒さじゃねぇよ! このぼったくりが!」


「なにをいまさら。観光地の屋台なんてみんな、観光地ぼったくり価格で商品を販売しているじゃないですか」


「観光地に謝れ!」


「そして私の屋台は、さらに金額を上乗せした、高価格の観光地ぼったくり価格で販売しているだけです。どっちもぼったくりに変わりはないので、責めるなら私だけじゃなく、フーユイン全体を責めてください!」


「俺はぼったくり価格のことを責めてんじゃねぇ!」


 はぁ、ツッコむのももう疲れてきたよ。


 本当はぼったくり価格まで追及したいけどね。


「俺はユニコーソの角をユニコーンの角と偽ってることを責めてんだよ!」


「え? 私たちはユニコーンともユニコーソとも言ってませんよ? お客が勝手に勘違いを」


「みなさーん! ここの屋台はユニコーンの角と偽ってユニコーソの」


「ちょっと、しーっ! 静かに! 大声出さないでください! バレたらどうするんですか。これはいざというときにジツハフを守るための金儲けなんですよ!」


「ついこの前まで感動的だったのに、ずいぶんと都合のいい言葉に成り下がったなぁ!」


「お姉ちゃん。僕を守るためにありがとう!」


「ジツハフはこの行為にお礼を言ってはいけません!」

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