第97話 やばいですね
二人の男のうち、一人はクリストフさんで、もう一人は身長二メートルほどあろうかというドレッドヘアーの大男だった。
つまり、あのドレッドヘアーが噛ませ犬……じゃなくてカイマセヌなのだろう。
クリストフさんが持っているバケツに入っているのは氷水。
それを気絶しているジツハフくんにかけて強引に起こそうとしている。
「誠道さん。やっぱりここにはなにもありませんね」
「いやいるだろうが! お前の目は節穴か? 椅子に縛られて、あざだらけのジツハフくんが目の前に!」
「でも『ココニハゼッタイニナニモアリマセン』って、象形文字で壁一面に描かれてますよ?」
「そっちの話かよ! 宝がある可能性がさらに強固になったから、全部解決したら絶対にくまなく調査してやるんだからね!」
「あ? お前ら、誰だ?」
俺のツッコみの余韻をかき消すように、ドスの効いた低い声がこだまする。
ドレッドヘアーの大男、ピロードロー・カイマセヌがこちらを睨みつけていた。
「カイマセヌさん。こいつら祭りのときに、俺たちの屋台の売り上げに貢献してくれた、いいやつらです」
クリストフさんが怯えたような口調で説明する。
結果的にそうなっただけど……ほぼほぼ合ってるから訂正しないでいいか。
そのときのことを恩義に感じて、ジツハフくんを快く引き渡してくれるなんてことは……。
「お前に聞いてねぇんだよ!」
カイマセヌがクリストフの顔面をぶん殴る。
クリストフさんはバケツの中の氷水をぶちまけながら盛大に吹っ飛び、白い壁にぶつかって倒れ、白目をむいて動かなくなった。
「誠道さん。……ヤバいですね」
ミライの声は強張っていた。
そうなるのも無理はない。
だってあいつ、仲間を簡単に殴り飛ばしやが――
「あの衝撃で白い壁には傷ひとつ入ってません。強固すぎます」
「そっちの話かよ!」
なんで二度も同じツッコみをしなきゃいけないのかなぁ。
「そんなことはどうでもいいだろ。あいつ、仲間を簡単に殴りやがったんだぞ」
その行動だけで、どれだけカイマセヌが凶暴で残忍かが見て取れる。
しかも、ただ殴っただけであの威力。
よし、ここは挑発せずに油断させたうえで不意打ちを狙うしかないな。
「ミライ、ここは慎重に」
「ちょっとあなた。私たちはジツハフくんを救いにきたのです! カイマセヌだか噛ませ犬だか知りませんが、あなたなんかさっさと不買運動に参加して買いませぬって叫んでいればいいんです!」
「なに全身全霊をかけて煽ってんだよ!」
「それと私たちが売り上げに貢献したのではなく、あなたたちが私たちの売り上げを、非合法な手段を使って奪ったのです」
「だから煽るなって言ってるだろ!」
「私は事実を言ったまでです!」
「たしかにそうかもしれな――俺たちだって同じことしようとしてたからな!」
なぜミライと言い争っているのでしょうか。
ってかそんなことよりも、今は……。
「てめぇら、生きて帰れると思うなよ。俺が一番嫌ってることを言いやがって」
「ほら、完全に怒っちゃたじゃないか!」
名前をもじって噛ませ犬だなんて言ったら誰だって怒るよ!
「むしろ俺は金が入れば即座に散在する豪快な男だぁあああ!」
「買いませぬの方に怒ってたよぉ! ――っ!」
いきなり右肩に鈍痛が走る。気がつけば横へ吹っ飛ばされており、白い壁にぶつかって倒れた。
ほんとだぁ、壁にはひびひとつ入っていない……じゃなくて。
どうやら俺はカイマセヌに蹴り飛ばされたらしい。
しかも壁にひびは入っていないのに、俺の骨にはひびが入っているかもしれない。
「ぐぁっ」
激痛が右肩を襲う。
「誠道さん! よくも誠道さんをっ!」
眉間にしわを寄せたミライが後方にジャンプしてカイマセヌと距離を取った。
鞭を取り、【
「そんなのがこの俺様に通用するかよっ」
が、伸びてきた鞭の先端が容易く掴まれてしまう。
「くっ……そんな」
「止まって見えるぜ。そんな攻撃」
苦虫を噛みつぶしたような表情を浮かべたミライを嘲笑うカイマセヌ。
「こっちへこいよ、クソ女!」
カイマセヌの腕に力が入る。
掴んでいる鞭を自分の方へ引っ張って、ミライの体ごと引き寄せ――――ミライがタイミングよく鞭を離したため、ゴムパッチンの要領で鞭の持ち手の固い部分が一直線にカマセイヌの元へ向かい、顔面にクリーンヒットした。
「ぐがっはっ」
倒れるカイマセヌと、キョトンとするミライ。
そして、痛みと笑いをこらえる俺。
「ど、どどどどうだっ! さささ最初から私はこれを狙っていたんです!」
「嘘つけ! ミライが一番動揺してるじゃないか!」
「ちちち、違います! これは私の必殺技! ………ええと、そう! 【リアクション芸】です!」
「それ絶対に今考えたやつだろ!」
「……てめえらふざけやがって」
ぶっ倒れていたカイマセヌが起き上がる。
これはヤバいぞ。
怒りで顔が真っ赤だ……じゃなくて鞭が当たったせいか。
「俺を本気で怒らせたらどうなるか、思い知らせてやる」
「いや今のは完全にあなたの自業自得ですよね? 俺たちなにもしてませんけど。完全に八つ当たりなんですけど」
「死に方を選べると思うなよ。雑魚が」
カイマセヌの体から黒煙が発生し、体を包み込んでいく。
その異様な光景に、心の底から恐怖を覚えた。
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