第88話 自称優秀なメイド
「ジツハフがっ! ジツハフが、ゆ、誘拐され、てっ! 私っ! もう、だって、いっぱい探してっ!」
「ちょっとイツモフさん。落ち着いてください」
ミライが声をかけるが、錯乱状態のイツモフさんには届いていない。
「ジツハフがここにっ、きてるんじゃ、ないかって思って! もういっぱい探して、ジツハフは、どこにっ」
「だから落ち着いてくださいって」
「でもいっぱいっ! いっぱい探したのにいなくて」
「ああもう、かくなる上はこの方法しかありませんね」
ミライががしっとイツモフさんの両肩をつかむ。
「イツモフさん。あなたが先ほど発した言葉、いっぱいの『い』を『お』に変えるとどうなりますか?」
「いきなりなんてこと聞いてんだよ! かくなる上はこの方法以外しかねぇよ!」
「そんなの『おっぱい』に決まってるでしょう。そんなことよりジツハフはどこに」
「イツモフさんは答えなくていいからね!」
「おっぱいではありません。『おっぱお』です。そんなこともわからないくらいイツモフさんは取り乱しているんですよ!」
「……」
ミライがそう一喝すると、しゃべりつづけていたイツモフさんがようやく黙った。
「いやなんで小学生男子レベルの下ネタで落ち着き取り戻してんだよ!」
「イツモフさんが黙ったと思ったら今度は誠道さんですか! さっきから取り乱し過ぎです。いいかげん冷静になってください!」
「なんか俺まで一喝されちゃったよぉ」
そんな俺の嘆きをミライは無視して、イツモフさんに向き直る。
「いいですか。まず、ジツハフくんはここにはいません。そして、あなたが動揺していても状況は好転しません」
「すみません」
しゅんとうなだれるイツモフさん。
「そうですよね。じゃあ私はジツハフを探しに」
「だから待ってください。協力しないとは言っていません。私たちも一緒に探します」
ですよね、誠道さん、とミライがこちらを一瞥したので、当然とうなずき返す。
「でも、どうして誘拐だってわかったんだ? ただ出かけてるだけじゃないのか?」
「家が! 荒らされてて、それで……それで、どこなのぉ、ジツハフ……」
イツモフさんがその場にしゃがみこんでしまう。
顔を手で覆って、声を上げて泣きはじめる。
これは本格的にヤバい。
一刻も早くジツハフくんを見つけないと。
もし本当に誘拐されているのなら、ジツハフくんの身にも危険が及んでいる可能性が高い。
「泣いている暇はないんじゃないのか」
俺はうなだれているイツモフさんの肩に優しく手を置き。
「とりあえず、三人で手分けして探すぞ」
「それは非効率的なのでやめておきましょう」
なぜかミライに止められましたとさ。
「なんでだよ? 一人より三人の方が効率的だろ」
「探す人数の話ではありません。イツモフさんの話を聞くに、ジツハフくんが何者かに誘拐されているのは間違いないでしょう」
「だからこそ、早く探さないとジツハフくんの身に危険が」
「誘拐されているんですよ。私たちがおいそれと簡単に探し出せる場所に潜んでいるわけがありません」
「……そう、か」
たしかにミライの言う通りだ。
簡単に見つかる場所に、誘拐犯が隠れているはずがない。
闇雲に探すだけではただ時間を浪費するだけだ。
「でも、潜伏場所のヒントもあてもないんだぞ。それで、どうやってジツハフの居場所を探し出せって言うんだよ」
「それについては、この優秀な美少女メイドにお任せください」
ミライはポケットからメモ帳を取り出した。
ミライが優秀だったことがあったかどうかは、今は置いておこうかな。
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