第66話 QED

 その後、聖ちゃんの力によって鞭の呪いを解除してもらうことに成功した。


 これで一安心だ。


「でもこれって神様からもらった神聖な装備品なんですよね? それが呪われてるって、いったいどういうことなんでしょうか」


 リビングのテーブルに置いてある、浄化し終えた鞭を訝しげに見下ろす聖ちゃん。


「もしかして、女神リスズって呪いの神様なんでしょうか」


「聖ちゃん、さすがにそれはありえるよ!」


 むしろなぜその可能性を今まで考えつかなかったのか。


 こんな嫌味ったらしくて人の困難が大好物で神聖さのかけらもない女神様が、呪いの神様じゃないわけがない。


「きっとそうだよ。あいつは呪いの神様……死神だったん」


「あ! これですよ! ありました!」


 突然ミライが叫んで、ダイニングテーブルの上に広げた自分の説明書を指差す。


 あのさ、QEDまでもう少しだったのに水をささないでくれるかな。


 とりあえず、ミライが指差した先を、俺と聖ちゃんも覗き込む。




 なお、この鞭は呪われています。

 神聖なる力を所持する女神リスズなら解除など朝飯前ですが、解除するかしないかは、あえてお任せします。

 だってその方が……のぅ。

 誠道的にはいいと思ってのぅ。

 ああ、私はなんて思いやりのある女神なのだろうか!




「その方が……のぅ、じゃねぇよ! 説明書なのに含み持たせんな! 無駄な思いやり発揮すんな!」


「女神様が見通していたということは、やっぱり誠道さんには縛られたいという趣味がっ! 任せてください。私、期待に応えられるように頑張りますから!」


「あれれー、鞭の呪いは解除したはずなのに、どうしてまた縛ろうとするのかなぁ」


 また暴走モードに突入しようとするミライを宥めていると、袖口をくいくいと引っ張られた。


 振り返ると、聖ちゃんが申しわけなさそうにうつむいていた。


「あの、誠道さん。私は誠道さんがどんな趣味を持っていても……その、仲良くしていきたいと……その……やっぱり無理ですごめんなさい!」


「聖ちゃんにだけは引かれたくないけどね! 俺の鞭で縛られたいっていう性癖より、魔物をぐちゃぐちゃにしたいって癖の方が絶対おかしいからね」


 聖ちゃんにツッコんだら、今度はミライに袖口をくいくいと引っ張られる。ああもう忙しいなぁ!


「もう、やっぱり誠道さんったら縛られたい性癖があるんじゃないですか。私はあなたのメイドとして求められればなんでも」


「いまのは言葉のあやだ! 俺は断じて縛られたいなどと思っていない!」


 くそぉ、クソ女神リスズめ。きっとこの謎の修羅場を見て、今も天界で腹を抱えて笑っているんでしょうなぁ。


 でも、考えるだけで恐ろしいぞ。


 もし、タイミングよく聖ちゃんがこなければ、女王様になったミライに鞭でいじめられつづける生活を送らなければいけなかったってことでしょ?


 惜しいことをしたなぁ……じゃなくて本当によかった!


 あのクソ女神こそ呪えるものなら呪いたいよ。

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