第27話 エロティックモード
その後、俺はすぐにオークション会場を後にして、顔を引きつらせている女性係員から魔本と聖ちゃんを受け取った。
ダンディなマスターに軽く頭を下げながらバーの外に出た後で、聖ちゃんにキレ――優しく頭を撫でる。
雨はもう上がっていた。
「誠道さん。助けてくれてありがとうございます」
聖ちゃんが深々と頭を下げる。
よかった。感謝されたぞ。
これで少しは俺と関わることに意味を見出してくれるだろうか。
「いいって。これが普通だから」
とりあえず、当然のことをしたまでだとアピールしておいて。
「ってか聖ちゃん。どうしてあなたは捕まえられていたのかな?」
「それは……ごめんなさい」
聖ちゃんが深々と頭を下げる。
「実は私、聖剣ジャンヌダルクを盗まれてしまって」
「え? 盗まれた?」
たしかに、聖ちゃんは聖剣ジャンヌダルクを持っていない。
「はい。私がゴブリンをぐちゃぐちゃにした余韻に浸っている間に、気がついたらなくなっていて。それで、【探索】を使ってサポートアイテムの現在地を調べたら、闇オークションの開催地であるこの場所だとわかったんです」
「なるほど。……【探索】ってなに?」
「転生者は全員使えるはずですよ。サポートアイテムが今どこにあるかがわかります」
「まじで? 俺知らないんだけど……【探索】」
とりあえず、俺は【探索】を使ってみた。
すると目の前にRPGゲームのエリアマップのような、自分を中心とした簡単な地図が広がり、ミライのいる場所――今はすぐ近く――が赤い点でマーキングされた。
「すげぇ、こんなのあったんだ」
「はい。だから私はここに潜入したんです。闇オークション会場にあるということは、絶対に商品として出品されるはずだと予想して」
「なるほどな」
「ただ、そこまではよかったんですが、調査中にのっぴきならない事情で檻の中に入ってしまって。そのおかげで出品される商品が集められた倉庫に入れたのですが、聖剣ジャンヌダルクは見当たらなくて、私自身が商品として出品されてしまって」
檻に入ってしまったのっぴきならない事情を詳しく聞きたかったが、今は置いとこう。
「一応聞くけど、まだ会場内に聖剣ジャンヌダルクはあるんだよね?」
「はい。この会場にいる誰かが必ず隠し持っています」
「でもそれっておかしくない? 聖剣ジャンヌダルクってかなり大きいよね? あんなものを持ってたらすぐにわかると思うけど」
会場内にそんな人はいなかったぞ。
「実は、聖剣ジャンヌダルクは持ち運びやすいように小さくできるようになってまして、もちろん私しか収縮はできないんですが、ちょうど小さくしているときに盗まれて……」
「そういうこと、か」
つまりは快楽に身を委ね、油断し切っていた隙に盗まれたというわけだ。
「じゃあ現時点でわかってることは、犯人は聖剣ジャンヌダルクを持てるくらいのステータスを保持しているってことくらいか」
「はい。初期の誠道さんとは違って」
「今しれっとバカにされた気がするけど、気のせいだよね。言葉のあやだよね」
「もう私、どうしたらいいのかわからなくて」
顔を手で覆って泣きじゃくる聖ちゃん。
かわいそうに。
誰だよ、盗んだやつ!
こんなに可愛い子を泣かせやがって!
絶対にとっちめてやるからな!
「私、あれがないと魔物をぐちゃぐちゃにできません」
いいぞ、盗んだやつ!
聖ちゃんを正常な子に戻そうとしたんだな!
できればそのまま逃げおおせてもいいかもしれないなぁ……いかんいかん。
危うく盗みを正当化するところだった。
「……って、そうじゃん」
俺はとあることを思い出した。
「誠道さん? どうかしたんですか?」
目じりに涙をためたまま、こてりと首を傾げる聖ちゃん。
「いや、俺がいれば、誰が聖剣ジャンヌダルクを持ってるか、わかるかもしれない」
「本当ですか?」
「任せとけ」
聖ちゃんを安心させるため、力強く宣言する。
今俺が言ったことは嘘ではない。
だって俺には、服が透けて見えるようになる術を習得できる魔本があるのだから。
その技を覚えた状態でオークション会場にいる人たちを見れば、聖剣ジャンヌダルクのありかをすぐに見つけられる。
よし、これはもう仕方がないな。
聖ちゃんのためなんだから。
本当はやりたくないけど、泥棒を捕まえるために、超法規的措置として、会場にいる女性全員の下着姿を見なければいけない。
「ありがとうございます。あの誠道さんがこんなに頼りになるなんて思いませんでした」
涙を拭いながら、笑顔を浮かべる聖ちゃん。
だからさぁ、やっぱりちょっとだけバカにしてるよね?
それから、すぐに俺はピンクの光を放つ魔本を読んだ。
ページを開いただけで、体中が燃えるように熱くなる。
中にはたった一文。
《エロティックモードと心の中で唱えなさい。これであなたは、服が透けて見えるようになるでしょう》
ほんとにこんな簡単でいいのかよ。
聖ちゃんでちょっと試してみよ――だめだだめだ。
聖ちゃんは盗まれた張本人なのだから、持っているわけがない。
あくまで俺は盗人を探す目的で使用するのだ。
そこだけは守らなければ、人間としてだめな気がする。
「あのぉ。すでに人間としてだめな気はしますよ。心の声が全部漏れてますよ」
「まじ?」
聖ちゃんにまで、ゴミを見るような冷たい目を向けられてしまった。
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