第20話 チート級

 心菜さんとの利害の一致? により俺は彼女とパーティーを組んで、一緒にゴブリンを狩りはじめた。


 まあ、俺は物陰からゴブリンの視界を奪うだけだけど。


 ゴブリンに接近して戦うのは聖ちゃんだから危険が少なくて助かる。


 もちろんお金も稼げる。


 俺にとっては願ったりかなったりの状況だった。


「【昼夜逆転しがち】。さぁ、聖ちゃん早く!」


「はい。誠道さん」


 パーティーを組んでしばらくすると、俺たちは名前で呼び合うようになっていた。


 黒い靄で視界を奪ったゴブリンに、聖ちゃんが片手剣で切りかかり、首をスパッと切り落とす。


 宙に浮いている頭に剣を突き刺し、頭が剣に突き刺さったまま、横たわって動かない胴体を何度も突き刺しつづける。


「あはは、ぐちゃぁ、ぐちゃぁ、ぐちゃぐちゃだぁ……」


 ゴブリンの紫色の体液を浴びながら恍惚の表情を浮かべる聖ちゃんを、俺は直視できなかった。


 だって本当に愉しそうに笑っていて、怖いんだもん。


「聖さん。睾丸、忘れないでください」


「あ、そうでしたね」


 ミライの一言で我に返った聖ちゃんは、なんのためらいもなくゴブリンの股間から睾丸をむしり取り、ミライに手渡す。


 すぐにゴブリンの元に戻って、また「あはは、あはは」と突き刺しつづける。


 うん。絶対に聖ちゃんに嫌われないようにしよう。


 おっぱいの話もやめよう。


 睾丸取られたくないからね。


「え? 私の胸がなんですか?」


「ななな、なんにもないです聖様!」


 それから、俺たちは一か月に渡ってゴブリンを狩りつづけた。


 はじめのうちはゴブリンに恐怖を抱いていた聖ちゃんだったが、今では俺がゴブリンに【昼夜逆転しがち】をかけると、真っ先に生きたままのゴブリンから睾丸をむしり取るようになった。


 そしてゴブリンの悲鳴と、手についたゴブリンの体液を見て、目をキラキラと輝かせながら「ああっ、かいっ、かんっ」と喘ぐのだ。


 これ……俺さ。


 絶対たぶんおそらくないとは思うんだけど、犯罪教唆にならないよね?


 相手がゴブリンだからいいけど、聖ちゃんに取り返しのつかないことを教えてしまったような気がして、罪悪感がすごい。


 やばい性癖モンスターを生み出してしまったのでは?


 ま、本人はすごく楽しそうなのでよしとするか。


 止めたら俺の股間が危なそうだしね。


 そんなこんなで、聖ちゃんは無事に聖剣ジャンヌダルクを持ち上げられるステータスと、もう後戻りができない特殊な変態性を手に入れることができました。


「ありがとうございます。誠道さん。ミライさん。あなた方のおかげで無事に数多くのゴブリンをぐちゃぐちゃに……じゃなくて私の際限ない欲望を満たす……でもなくてゴブリンの体液にまみれて快感に浸る……はほぼあっていますがとにかく! 聖剣ジャンヌダルクを持つことができるようになりました!」


 なんか、最初に掲げていた目的が快楽に侵食されているんですけど。


 聖剣ジャンヌダルクが、もはやついでみたいになっているんですけど。


「そそそ、そう言われると俺も嬉しいよ。むむむむしろ俺たちのお金稼ぎに協力してくれてありがとう」


「誠道さん? どうして後ずさりを? 声も震えていますし」


「いや、だってそれは……」


 ゴブリンの体液まみれの聖ちゃんが怖いからです。


 なんなら今も、俺と話しながら片手間でゴブリンの体に剣を突き刺してますし。


「ま、まあとりあえずさ、さっそく聖剣ジャンヌダルクを使ってみようよ」


「はい。私も早く聖剣ジャンヌダルクでゴブリンをぐちゃぐちゃ――純粋に性能を確認したいです」


「もう俺たちの前では隠さなくてもいいよ。全部知ってるし。隠しきれてもいないし」


 俺たちは、一度聖ちゃんの家に戻った。


 これまで聖ちゃんが持ち上げようとしてもびくともしなかった聖剣ジャンヌダルクは、今日は軽々と持ち上がった。


「やったぁ! ついにこの日がきました!」


 聖ちゃんが喜びの声を上げた瞬間、聖ちゃんの体が、聖剣ジャンヌダルクから発せられる神々しい白い光に包まれていく。


「すごい、すごいすごいすごい、すごいですぅ」


 聖ちゃんの顔が、ゴブリンを惨殺しているときとは違う興奮に包まれていく。


 子どもがキラキラ光る宝石を見つけたときのような、無垢な表情だ。


 こんな表情だってできることがわかって、お兄さん安心しました。


「持ち上げただけなのに、【攻撃】【防御】【魔攻】【魔防】【素早さ】のレベルが200も上がりました!」


「……え? なにそれずるすぎない? 持ち上げるまではたしかに大変だったけどバランスおかしいよね。アプリゲームだったら即座にメンテナンス入るよ?」


「すごいすごいすごい、必殺技がこんなにたくさん?」


「だからずるいよね? 俺なんて、一か月部屋で筋トレしまくっても【昼夜逆転しがち】っていうふざけた名前の必殺技しか拾得できてないよ?」


「えっと、【聖切せいきり】に【聖一刀両断せいいっとうりょうだん】、そして【聖浄化せいじょうか】……はいらないですね。浄化イコール体が消える。それではなんのために戦っているのか」


「そんな強そうな必殺技に文句言うなんてずるいぞ! 俺の必殺技の名前を聖ちゃんも知ってるだろ!」


「後は【聖串刺しせいくしざし】に【聖ぐちゃぐちゃざん】……この二つは使えそうですね」


「あれれー? 女神様、絶対名づけるのが面倒になったよね。なんなら最初の【聖切】から怪しいと思っていましたけど? 聖、って最初につけてればいいやっていう投げやり感出てますよ」


 ってか【聖ぐちゃぐちゃ斬】って、聖ちゃんの性格を如実に反映させすぎだろ!

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