第19話 契約成立!

 心菜さんの説明を聞くに、この聖剣ジャンヌダルクを持ち上げるには、【攻撃】と【魔攻】のレベルが50必要らしい。


 でも、心菜さんはレベルが3しかないそうだ。


「誠道さんの初期値より上ですね。年下の女の子に負けていた感想をどうぞ」


「いいかげんいじるのをやめろ」


 ミライにツッコんでいる間に心菜さんは話を進める。


「私はこの大剣を持ち上げるために、レベルを上げようと思いました。でも冒険者パーティーには弱すぎて入れてもらえなかったんです。だったら、一番弱いゴブリンからソロで倒していこうと思ったのですが……その、いざゴブリンを目の前にすると、負けちゃうんじゃないかって怖くて」


 なるほど。


 魔物をぐちゃぐちゃにしたという強い欲望を持っていても、いざ戦うってなると、負ける恐怖がちらついて尻込みしちゃうってわけか。


 負けイコール死だもんね。


 俺だって魔物と戦うことには抵抗がある。


 さっきは運よくゴブリンを倒すことができたが、次もうまくいく保証はない。


 ってか普通に生物と戦うのは怖いし、可能ならもう戦いたくはな――いや、屋外の戦闘で経験値が稼げない俺はそもそも戦う意味がないのだ。


「そこで、石川さんに協力してほしいのです。話を聞くに、石川さんは外で魔物を倒しても経験値が入らないんですよね?」


「まあ、【新偉人】がそういう固有ステータスだからな」


「お二人で作ってしまった借金もあるんですよね?」


「実際はミライひとりでだけど、ここでそれを否定するとミライと言い争いになって面倒だからもうそれでいいよ」


「よっしゃ」


 ミライさんガッツポーズするのやめてね。


 全部見えてますよ。


「だったら」


 心菜さんが一歩前に出る。


「石川さんが、先ほどのようにゴブリンの視界を奪って、私が無防備になったゴブリンを一方的に、好きなだけぐちゃぐちゃのめちゃめちゃに蹂躙する。もちろん経験値は私がもらうことになりますが、ゴブリン退治の報酬はすべて石川さんに差し上げます」


 どうでしょうか? と、キラキラとした目で俺を見てくる心菜さん。


 ああ、そんなにゴブリンを蹂躙したいんですね。


「お願いします。私より弱い人っていったらもう石川さんしか思い浮かばなくて。石川さんに断られたら、私は一生ソロで戦うしかなくて、心細くて」


 うん。頼むなら、もうちょっと丁寧に言い方を考えたら? と思わなくもないが、中学生にそこまで求めるのも酷だし、独りぼっちはつらいもんな。


 ――本当に酷か?


 まあでも、俺目線で考えても利益しかない申し出を断る理由はなにひとつない。


 だってこの条件、俺は直接戦わなくていいのだ。


 死の危険を大幅に減らせる。


「頭を上げて、心菜さん。もちろん俺でよければ仲間に」


「その条件では全然話になりませんね。心菜さん、あなた、社会を舐めてもらっては困ります」


 握手をしようと伸ばした俺の手をサッと払いながら、ミライが心菜さんの正面に立つ。


「おいミライなに言ってる? こんなの願ったりかなったりの」


「誠道さんはちょっと黙ってください!」


「はい!」


 ものすごい威圧感に、思わず背筋を伸ばして心臓をささげる体勢を取ってしまった。


 心菜さんも明らかに怯えている。


「いいですか、心菜さん。お金だけで私たちが満足すると思ったら大間違いです」


「いや借金あるんだからお金だけで満足しろよ」


「もし私たちと協力したいなら、そうですね……」


 ミライが詐欺師のようににやりと笑う。


 こいつ、どんな劣悪な条件を突きつける気だ?


「当然、ゴブリンの睾丸は私たちがいただきますよ」


「どんだけゴブリンの睾丸を煮物にしたいんだよ!」


 俺は食べないって言っているだろ。


「えっ、あ、……それじゃあ、でも」


 なぜか表情を曇らせる心菜さん。


 ……え? なにその反応?


「どうなんですか? 心菜さん」


 ミライが心菜さんに詰め寄る。


 心菜さんは今にも泣きだしそうな顔で。


「わ、わかりました。ゴブリンの睾丸は差し上げますが……」


 かっと目を見開いた心菜さんが、ミライをまっすぐ見据える。


 敏腕交渉人が見せる、一歩も引かない目だ。


「せめて睾丸をぐしゃりと抉り取るところだけは私にやらせてください!」


 や、やっぱり俺、心菜さんの仲間になるのやめようかなぁ。


 なんかゴブリンがかわいそうになってきたよ。


「その条件なら……いいでしょう。よろしくお願いします」


「ありがとうございます」


 がっちりと握手を交わす二人を見て思う。


 俺、この二人と一緒に行動して大丈夫なのかなぁ。


 満面の笑みを浮かべる二人を見て、思わず股間を両手で覆ってしまう俺なのであった。

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