第15話 初めての戦闘
それからまたしばらく歩くと、木の陰から出てきたゴブリンと鉢合わせした。
相も変わらずゴブリンは、「アア、ググ、ア」とコミュ障を発動させている。
「よっしゃ。今度こそ。悪く思うなよ」
俺はゴブリンに手を伸ばす。
なんかこうすると、必殺技を発動してる感がして格好よくない?
「くらえ! 【昼夜逆転しがち】!」
ま、名前がダサすぎるので、格好つけた分だけ格好悪くなるんですけどね。
予告ホームラン宣言してバントする野球選手くらい格好悪いよ。
「そんなことより、この技の効果だ効果」
手の先から炎や水が出る……はずはない。
まあそんなもんははなから期待していないが。
「誠道さん。もしかして手の先から炎とかが出ると期待してました?」
「ななななに言ってるんだよ。そんなの名前からしてあるわけがないんだからさ」
ミライに見事に言い当てられて心臓が縮み上がる。
「ほんと、あの名前で炎とか水とか、どんだけポジティブバカなんだよ。そもそもネガティブだから引きこもるんだ。前向きな引きこもりなんていない」
「そうなんですか? でも誠道さんは日本にいるとき、自分の部屋で目からビームを出そうとしたり、俺の人生はこんなはずじゃない、まだ才能が見つかっていないだけだ! って過度なポジティブ思考をしてましたよね?」
「さーて、ゴブリンはどうなったかなぁ」
「にもかかわらず、ベッドの上で動画を垂れ流すだけで一日を終えたり、なぜか深夜ラジオにはまって通ぶったり、ゲーム実況なら俺にもできそう! なんて思っても結局機材を調べるだけしかしなかったり」
「さーてっ! ゴブリンはどうなったかなぁ!」
さっきよりも大きな声を出して、ミライの言葉を強制終了させる。
ってか俺たちはゴブリン討伐にきてるんだよね?
ミライだけ石川誠道討伐ミッションをやってない?
「ガガガァググゥ」
「おっ?」
俺の必殺技を受けたはずのゴブリンが、目を抑えて苦しんでいるのに気づく。
よく見たら、ゴブリンの目の周りに黒い靄のようなものが纏わりついていた。
ゴブリンは周囲が見えていないのか、あっちこっちへふらふらしている。
「これって、もしかして」
俺はミライを見ると、ミライも無言でうなずいた。
「はい。相手の視界を奪う必殺技だと思われます」
「……だよな。これ、相手の視界を奪うって、結構強くないか?」
今はまだゴブリンの目くらいしか覆えないが、これから練習していけば、いずれこの世界すべてを真っ暗にできるのでは……あ、それで昼夜逆転ってことね。
「すげぇじゃん、これ。俺、ちょっと鳥肌立ってる」
「誠道さん。浮かれるのはいいですが、早くゴブリンを倒しましょう。いつまでその黒い靄がつづくかわかりませんし」
「そうだな。おりゃぁああ!」
俺はゴブリンに近づいて、棍棒を脳天めがけて振り下ろす。
ドゴッ、という鈍い音がして、頭蓋骨が砕ける感触が棍棒を通して伝わってきた。
地面に倒れたゴブリンの頭からは、紫色の液体がびゅうびゅうと噴き出している。
棍棒も、ゴブリンの頭とぶつかったところを起点に粉々に砕けた。
「いや、この棍棒脆すぎだろ!」
まあ、倒したからよしとしよう。
さて、ゴブリンを倒すとどれほどの経験値がもらえるのかな?
「なにを期待しているのですか? ここは外です。経験値はもらえませんよ」
「そうだったぁ! 俺は家の中でしか経験値を稼げないんだぁ! ……あれ、じゃあ俺が魔物と戦う意味は?」
「私たちの借金を返すためですね」
「全部お前が作った借金だろうが」
「そんなにかっかしないでください。経験値はたしかにもらえませんでしたが、敵を倒したっていう成功体験と」
ミライはそこで言葉を止めると、おもむろにゴブリンの亡骸に近づいていく。
足の間に手を突っ込むと、そのまま勢いよく手を引っこ抜いた。
「ほら。おいしいおいしいゴブリンの睾丸がもらえました」
にっこりと笑うミライの手には、紫色の液体がべっとりと付着した、茶色くて丸いものが二つ。
俺は思わず股間を抑えた。
「これで、今日もおいしい煮物が食べられますね」
「食べても絶対においしいなんて思えねぇよ!」
俺がそう叫んだときだった。
「あ、あの……」
俺たちの背後から、女の子の声が聞こえてきた。
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