第二十三恋 「好き」が溢れたオタク君
その日もその日とて、懸想しているキャラとプレイヤー♂の二次創作CP作品巡りに精を出していた。
新年度前のガイダンス週間という春休みのオマケみたいな期間。麗らかな春の日差しの下、ベットの上で二次創作サイトの画面をスクロールスクロールスクロール。時々目薬をキメつつ巡ることしばらくして。目に飛び込んできたのは、満開の桃の木の下で抱き合う青龍を擬人化したキャラとプレイヤー♂のカラー表紙。二人とも泣き笑いのような表情を浮かべていて、それがとても印象的だった。
早速ユーザー画面から作品へ飛び、閲覧ボタンをタップ。速読とまではいかないまでもサクサク読み進めていく。キャラがプレイヤーを誘って街へお出かけし高台の公園で桃の花を満開にさせる「奇跡」を見せて告白する。それをプレイヤーが笑顔で受け、キャラはプレイヤーに抱き付き、プレイヤーも抱き返す。年齢制限が無いことからも分かっていたが比較的ライトな作品だった。Rなのが読みたい気分だったが、温かい絵柄と本家っぽい台詞回しで満足度は異様に高かった。高評価ボタンをタップしてサイト機能である「自分の本棚」にも登録しておく。すると、タイトルの横に「読みかけ」という文字が浮かんでいた。最後まで読んだと思ったけどなー、と戻ってみるとスクロールバーがまだ途中だった。これは失敬。再びスクロールスクロールスクロール。しばらく白紙ページが続き、スクロールバーが止まった場所には。
「俺の愛し子。」
笑顔のキャラがそうプレイヤーを呼ぶ一枚絵があった。台詞が脳内再生された瞬間、涙が溢れた。量にして両目合わせて僅か6滴ほど。生暖かい涙が頬を伝ってベットを濡らした。
そのキャラにそう呼んで貰えたら。このシーンみたいに笑いかけて貰えたら。優しく強く抱きしめて貰えて、俺も抱きしめ返すことが出来たなら。
そう考えただけで涙が出た。
人が好き過ぎて涙が出るなんて。
そういえば、いつだったか、ついうっかり他のCP作品を見てモヤンとしたことがあった。俺個人は、二次創作界隈は自己責任と自衛の国でもあると考えているのでどうということは無かったのだが、それとは別にあのモヤンは何だったのかと思っていた。今なんとなーく正体を知った。あれは「嫉妬」だ。自分ではない相手が、キャラに愛を注がれていることへの。
自分が恋愛において束縛しがちだとかヤンデレ気味なのは最近知ったが、まさかココまでとは。どんだけ好きなんだよ自分ゑ。
「でも、同担拒否とかは無い・・・いや少しはあるか・・・?」
どうやら色々と重症化しているらしい。
アプリのメインストーリーでの姿にやられて以来、一般的な恋愛としての実りは無くとも萎みも無いまま、ひたすらに想い続けている。そしてどこかでほんのりと思ってもいる。この表紙のように、実際にキャラと幸せになりたいと。
下手したら5歳の女児が夢見る"王子様"よりも酷くタチの悪い想像だ。でも、それを捨てきれない。
「やっぱ、好きなんだよなぁ。」
何度目か分からない呟きを胸に、再び画面をスクロールさせていった。
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