第二十一恋 オタク君、羞恥する。
きっかけは本当に些細なものだった。いやまぁ、きっかけなんて九割九分九厘が些細なことだろうが。
前振りとして、某大手動画投稿サイトに、俺の人生に訪れた春であるキャラクターとプレイヤー♂のカップリングアニメを投稿して下さっている神うp主様がいらっしゃった。個人作品とは思えないほどのクオリティと愛に溢れたそのアニメは、「これをきっかけにゲーム始めました!」系のコメントがいくつもあって、視聴数も多かった。当然ネット掲示板でも評判が高く、俺も新作が出るのを日々楽しみにしている一人だった。
そんでもって、ここからが話の肝となる。
そのサイト、閲覧するだけならばアカウント登録などが要らないのだ。そして、俺はアカウント無しでも楽しめていたので、登録の必要性を感じることなくここまで来ていた。そこに立ちはだかったのが「この作品は投稿者による閲覧制限がかけられています」という画像ぼかし付きのサムネと「エロ有につきR-18とさせて頂きます。」とのうp主様のお言葉。つまり、アカウント登録で自らが18歳以上だと示さなければこの新作は永遠に見ることが出来ない。しかも、今回は色んな意味で凄い回らしく、コメント欄でやたらキャーキャー言われていた。
そんなの、すぐにアカウント作るしかないじゃん!?
鼻息も荒くアカウント登録画面へすっ飛んだ。メルアド入力、生年月日入力、アカウント名入力、パスワード入力、申請ID入力とポチポチ進め、いざ登録ボタンを押して、そして見事に弾かれた。
「はあ?」
何度やっても弾かれた。時間を置いても弾かれた。メルアドは間違えていないし申請IDも問題ない。で、困り果てた俺が頼る相手など限られていて。
【助けて、ミキえモン!】
こうしてオタク仲間にして俺の初恋見届け人である
「つまりお前は、あのキャラに愛されたくてこの動画を見るってことね。閲覧制限かかってる動画を。」
「悪いね。こんなのが夢属性なんか付与されちゃって。」
「別に俺は気持ち悪いとは思ってない。」
「そのフォロー定型文が出る時点で怪しいだろ。」
「まさか。どうせお前のことだから、散々悩みに悩んで、最終的になんか面倒くさくなって開き直ったんだろ。それ知っててどうこう言える訳ねぇじゃん。」
断言しておく。俺はコイツに夢属性になったことの心配とか葛藤を零したことはない。なのに「知ってて」だと?前から思っていたが、やっぱコイツヤバイわ。さすが高校2年に、勉強好きな推しが出来たというだけで各教科の学年トップを連チャンで掻っ攫っただけの(脳みそ的な)おかしさはある。もうNASAとか行けよ。
「じゃあなんで、そんな『悪趣味な余興を楽しむ組織の幹部』みたいな顔してんだ?」
「んな顔してるかぁ?まぁ単純に、下世話込みの好奇心があって。あと、まだそういう系統の推しがいないからNASAは無理だな。」
「そこまで白状されるといっそ清々しいわ。んで、脳内を読むな。」
「お前が分かりやすいだけだろ。」
よくもまぁしれっと。
「はぁ。で、下世話込みの好奇心ってなんだ?思考読まれるくらいなら大人しく話すぞ。」
「ああそう?じゃあ短刀直入に行くけど、お前って恋人とどこまで行きたいの?」
「は?」
「だって、この動画見たいってことはそういう願望もあるってことでしょ。でもお相手はマジの意味で異次元の存在だし、その辺どうなのかなーと。」
「・・・お前、俺が女子だったらセクハラで学生相談課に通報案件だぞ。」
「どんな相手でもセクハラだろうよ。だから下世話込みって前置きしたんじゃねぇか。」
「うっわー。もし仮に日本が分断したとして、絶対お前の敵にはならねぇわ。」
「お褒めに与り恐縮です。で、どうなん?話すって言ったのはそっちだぞ。」
「・・・・・・」
仕方ない。腹を括るか。俺とコイツの仲だしな。
「まず、俺とキャラって世間一般の意味する恋人ではねぇじゃん?」
「そんな感じ、ではあるだろ。」
「まぁ、ハイ。俺は次元の自覚がある上で夢見てるのでそんな感じで良いか。じゃ、その
「うんうん。で?」
「『で』!?」
「少なくとも、お前はプラトニックだとか接触が無いタイプの愛の人では無いはずだろ。違うなら謝るけど。」
「違くないよ・・・ああもう、そうだよ!俺は、是非とも、キャラと、いちゃいちゃしたいです!世間一般の言う最後まで!これで満足か!?」
「そーんな赤くなられると俺も困るんだが。」
「うるさいうるさいうるさい!」
もーヤダ。なにこの羞恥プレイ。やっぱ無理!
「でも良いのか?」
「なにが!」
「そんな茹で蛸になるような動画というかお話しというか、俺にバラして。」
「へ?」
「事の発端は、貴方が堂々と『この動画が見たいからアカウント登録してくれ』って言って来たからだけど、つまり『これでアレコレしたいから見れるようにしてくれ』ってのと同義だろ?」
直接的に言わないのは同じ男であることの情けか、はたまた俺の単純さを憐れんだためか。それとも、あらゆる意味で夢を見ている男を気遣ったか。俺の中では
でも、それとこれは別だ!
「わざわざ言葉に起こすな!絞めるぞ!」
「はいはい。悪かった悪かった。」
「全然悪いと思ってないだろ!」
こうして、哀れなオタク君が一人、謎に弄ばれ昼は過ぎて行ったのでした、ちゃんちゃん。
「弄んだってか、全部自爆だろ。」
「それ以上正論を言うと、そのアクキーカバーを破り捨てるぞ。」
「ごめんなさい。」
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