1-5 「自己紹介をしよう」②
「改めて自己紹介をさせてもらうよ。
「妻の
キター! トウジさんに、サイネさんだ!
テレビ画面の前で応援していたスター二人を前に、私のテンションは急速に上がっていた。
「お二人とも有名人というだけあって華がありますね~」
「そうですよね! 結婚当時は美男美女のビッグカップルとして連日報道されていましたよ。特にサイネさんは結婚を機に女優を引退されていますからこうして会えて感激です!」
なんとか会話に入ろうとして、思わず声が上ずってしまう。
そんな私の様子に、サイネさんは優しく微笑む。
「ふふふ。ありがとう。今は女優で培った経験を活かして後輩の指導や、服飾のデザインの仕事などをやっているわ」
「そうなのですね! 相変わらず綺麗で、私感激です!」
「あら、そうかしら。でも、現役時代からしたら少し太ったでしょ?」
「いえ、そんなことはないです! むしろテレビで見ていた時より、ずっと綺麗ですよ!」
サイネさんと話をしている!
サイネさんは女優を引退してから三年ほど立つはずだが、その容姿の端麗さは健在だった。
ゆったりとしたワンピースを着ているせいか現役時代と比べ少し体型が丸くなった印象を受けるが、包容力が増し以前より綺麗になったとさえ感じる。
「私、サイネさんが出てたドラマは全部見てます! かっこいい女性役と言ったら、やっぱりサイネさんが一番です!」
「そんなに面と向かって褒められると照れくさいわ」
「君は妻の大ファンなんだね。応援ありがとう。君がほとんど語ってくれたから僕達の言うことがなくなってしまったね」
「あっ、いえ。すみません。つい、熱くなっちゃって」
「いいや。こんなにも僕達を応援してくれているんだ。うれしいよ」
トウジさんは私を見ながらやわらかく微笑む。
あっ、やばい、幸せすぎる!
トウジさんの笑顔の破壊力に私は頭を沸騰させる。
「ええっと、トウジさんが格闘家さん、サイネさんが女優さんですね~。お二方ともよろしくお願いします~」
メリーさんが二人の自己紹介を締めくくるのを、私は放心しながら聞いていた。
「では、取り決めに従って次は僕の自己紹介の番ですね?」
サイネさんの左隣に座っているのが先ほどモータさんの通訳に名乗り出たジャージ姿の男性だ。
「僕は
ノウトさんは礼儀正しく深々と私達に頭を下げる。
「ノウトさんは学者さんなのですね~。言語学というと、どういった内容を研究されているんですか~」
メリーさんからの質問に、ノウトさんは理路整然とした口調で答える。
「言語学とは言語の成り立ちや習得過程から、その言語を使用する文化の背景を研究する学問です」
「なんだか難しそうですね~」
「いいえ。そんなことはありませんよ。言語とはすなわち人同士のかかわりから発生するもの。言い換えればその言葉が話されている地域の文化そのものです。例えば若者言葉や、流行語なども言語のひとつですよね。言語を学ぶということはその時代を生きる人達の生活を学ぶということなんです」
「なるほど~? 立派な学問なのですね~」
ノウトさんの説明にあいまいに頷くメリーさん。
うん。メリーさんはあまり分かっていない感じだよね。
私もノウトさんの説明はなんとなく分かった気はするが、説明しろと言われても無理だ。
【 古井戸能徒: 言語学者 】
あっ。そういえば舞い上がりすぎてトウジさんとサイネさんのメモをとるの忘れてた。
【 王野統時: 格闘家 サイネの夫 】
【 桜丘采音: 元女優 トウジの妻 】
ノウトさんの前のスペースに慌てて二人の名前を書き足す。
二人のことならいくらでも情報が書けるのだが、今は次の人の自己紹介が始まりそうだ。
私は泣く泣く二人の詳細を書き込むのを断念する。
「ようやく私の番ですわね」
赤いドレスの女性は腰に片腕を当て、高慢な態度で自己紹介を始める。
「私は
全身を覆うきらびやかな深紅のドレスが目にまぶしい。
後ろに長く結われた赤い髪は例えるならサソリの尻尾のようだ。
「キラビさんはペットショップの社長さんなのですね~。私、ワンちゃん大好きですよ~」
「あなた、私の話をちゃんと聞いていまして?」
突如キラビさんの声のトーンが氷点下にまで落ち込む。
「えっ? ええっと~。何かまずいこと言いましたかね~」
「私、言いましたわよね。ペットショップ『ベノム』の代表だと。ベノムが扱うのはラブリィな蛇や蜘蛛、サソリなどの毒を持つ生物だけですの。犬、ネコなんて畜生を扱っているだなんて侮辱もいいところですわ」
「な、なるほど〜。キラビさんは蛇さんとか、サソリさんとかが好きなのですね〜」
「好きなんてものではありませんの。これは
キラビさんはどこか遠くを見つめて、満面の笑みを浮かべている。
うーん、毒を持った生物を好きに思う感覚は分からないけれど、人の好みは人それぞれだよね。
【 赤金綺羅美: ペットショップ経営 毒を持つ生物が好き 】
その後もペットへの愛を語るキラビさんを横目に、私は日記帳にメモを書き記す。
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