木瓜

プロローグ


 「私達、ずっと、友達でいようね」


彼女が、そう私に言ってくれたのは、ホームルームを終えた、夕暮れ時の、人のいない教室での事だった。


帰宅したり、部活に行ったりで、その教室に残っていたのは、彼女と私の二人だけ。


世界に、私達だけが取り残されたような感覚と、彼女が見せる、心を喰いつくすようなその笑みが、私に、言い様の無い高揚感を与えた。


「うん。ずっと、友達でいよう」


そのやり取りは、誰にも言えない、秘密の約束を交わしたかのように、私の心を静かにくすぐった。


それが、何だかこそばゆくて、思わず笑みを零す。


釣られるように、彼女も笑って、静かな教室に、二人の笑い声だけが響き渡った。


その日、彼女と交わした、秘め事のような約束が、いずれ、世界を破滅へと導くものになる事を、当時の私は、知る由もなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る