第25話 返事
「――私はあなたのことが好きです」
宮崎にそう言われた時、少し時間が止まった。
僕が考えていたのは、『やっと来たか』と『どうしよう』の2つだった。
『やっと来たか』の方は、宮崎が話し始めてから薄々感じていたことだ。
僕は中学生の頃、宮崎に罰ゲームで告白をされて復讐を誓った。しかし、後に宮崎が恥ずかしくてはぐらかしたことが判明している。もう復讐は半ば終わっていたようなものだった。
そして遂に今日、僕が宮崎の告白を断れば、ちゃんと復讐が終わったことになるのである。
そして『どうしよう』の方。こっちは言わずもがなだが、告白の返事についてだ。
高校生になってから告白まがいのことを言われたり、色々な人から告白をされてきた。いつもは即答で断っていたが、今回に関しては即答など出来なかったのである。
知らない人から告白されれば、断ることは当然だ。その人のことを何も知らないのに付き合うだなんて、僕には出来やしない。
だが今回はよく知っていて、僕が少し前まで好きだった女の子からの告白。そう簡単には断ることなど出来ないのが本音である。
――なら、僕は今も宮崎のことが好きなのだろうか。
いいや、恐らくそれはないだろう。
――僕は宮崎の告白を断って、何もかも終わらせるんだろう?
そうだ。今日でやっと、終わる。
僕がここで宮崎の告白を断れば、復讐が終わる。
ただ断ればいいのだ。いつものように。知らない人からされた告白と同じように。
「……ありがとう」
「……うん。もし良かったら、なんだけど……さ。私と付き合ってくれないかな……?」
宮崎は頬を赤く染めて、フワフワとした栗色の綺麗な髪をいじりながら言う。
その姿はすごく可愛いかった。
でも……。
「…………ごめん。僕は宮崎の気持ちには答えられない」
どうしてだろう。
いつもは告白を断っても、こんな気持ちにはならなかったのに。
――――胸が、張り裂けそうだ。
「…………そっか。そうだよね。知ってた。告白をしても絶対ダメだって。うん……」
なぜか胸の痛みがどんどん強くなっていく。
どうして僕がこんな気持ちになっているのかは、分からない。
きっと宮崎の方がもっと痛いはずなのに。
「……ごめん」
「ううん、いいの! 私こそごめんね! じゃあね! 酒井くん」
無理に笑いながらそう言って、背を向けて走り去っていく宮崎。
宮崎が見えなくなるまで、僕はずっと宮崎の後ろ姿を見ていた。そして見えなくなったと同時に膝から崩れ落ちる。
「……これで良かったんだ。復讐だってやっと終わりだし」
宮崎は泣いていた。
僕は、彼女を泣かせてしまったんだ。
「ははっ……いい気味じゃん。僕だって中学の頃は悔しくて泣きじゃくったし…………あ、あれ? なんで……?」
僕の手元に1滴、もう1滴と雫が落ちてくる。
今日は雨なんて降っていない。そして気づく。
どうして、僕も泣いているのだろう。
分からない分からない分からない。
僕は宮崎に復讐をした。本当ならスカッとして、宮崎のことなんて忘れられるはずなのに、どうして!
――どうして、宮崎のことを忘れるのがこんなにも辛いんだろう。
ただ忘れるだけ。もう思い出す必要なんてない。
そう思うだけで、今にでも胸が張り裂けそうだ。
「……とりあえず、僕も帰るか」
もうとっくに17時を過ぎていて、この公園には僕以外誰もいなくなっていた。
これ以上ここにいる意味もないし、帰って頭を冷やそう。そう思った。
「……ただいま」
「おかえり〜! ……って、どうしたのその顔!」
かなり時間をかけて家に帰ると、待っていたと言わんばかりに玄関には妹の
「……顔?」
「すごい顔が真っ青になってるし、目なんて真っ赤だよ!?」
結衣は心配そうに言ってくる。
そんなに酷い顔してるのか……。
「……結衣、ごめん。今日は僕の部屋には入ってこないで欲しいんだけど」
「え? で、でも……!」
「大丈夫。なんでもないから」
更に心配をかけることになるかもしれないが、こう言うしかなかった。
そして結衣の横を通って、颯爽と自分の部屋へと向かう。
「ちょ、ちょっとお兄ちゃん!?」
ごめん、結衣。
今日だけは1人にさせて欲しいんだ。
そして次の日、いつもなら学校に向かっている時間だが、僕はベッドで寝転がっていた。
今日は熱があると言って学校をサボったのだ。本当は熱なんてないけど。
そしてさらに次の日、また次の日も僕は学校に行かなかった。
ずっと好きだった女の子に罰ゲームで告白されたので、復讐しようと誓って垢抜けしたら逆に言い寄られるようになったんだが? 橘奏多 @kanata151015
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