第16話 こいつ、本物のバカだ
「そういえば
「……え? なんで?」
昼休みになり、クラスの皆は弁当箱の
クラスの男子からの視線で殺気を感じるのは言うまでもないが、今日は女子からの視線でも殺気を感じる。
恐らく女子の殺気の矛先は大石だろうが、当の本人は全く気にしていない様子だ。
「いや、
「あー、うん、大丈夫だったよ。ちょっと話してすぐ別れたから」
「そっか、なら良かった」
それからはいつも通り他愛もない話で盛り上がり、昼休みは終わりを迎えた。
そして放課後になり、なるべく早く帰ろうとした矢先に大石に話しかけられる。
「
「頼み?」
恐らく駅前のカフェに――とかそんな感じだろうが、今日は絶対に無理である。今日は、というよりこれから約1週間はどんな約束にも断らなければならない。
なぜなら……
「うん、これから時間あるかな?」
「ごめん。今日は無理だ」
第1回定期考査が近づいてきているからである。
僕はこの学校の入試においてトップで合格した。そのため、どうしてもトップの座を誰にも譲りたくないのだ。
学年トップを再び取るためにも、とにかく勉強しなければいけない。そんなわけで遊んでいる暇など一切ないのである。
「そっか〜……勉強教えてもらおうと思ったんだけど、残念」
「え、大石が勉強? 冗談は止めてくれ」
「さすがに酷くない!? 私だって勉強くらいするよ!」
授業中はいつも寝てるくせに、と突っ込みたくなるのを我慢して口を引き結ぶ。
「でも、どうして急に勉強を教わりたいなんて言い出したんだ?」
授業中に寝る。それは授業がつまらなかったり、勉強が嫌いだったり、単に眠いからという理由でする行為だ。
しかし、大石の場合は体育や美術、音楽などの実技授業を除いた全部の授業で寝ている。それは眠いからという理由ではないだろう。そのため、大石は勉強が嫌いだと推測できる。
「実は先生にテストで良い成績を取らないと、お前留年になるかもしれないぞって言われちゃって……」
まぁ、それは当たり前だろう。授業で寝ていて、かつテストでも赤点を取れば留年は確定だ。
「まぁ、一応ノートは写してるけど授業中はずっと寝てるから一切内容分からないし、頭いい人に教えてもらわなきゃ理解出来そうになくてさ」
えっへん! と、胸を張って言う大石。
全く胸を張って言えないことである。
「……それで僕が選ばれたってことか」
「そゆこと! だって酒井くん、学年トップだしさ」
今のままでは留年ほぼ確定の大石。
だが僕自身も勉強をしなければ、当然学年トップの座から引きずり下ろされる。
だからといって大石を見捨てれば……
「はぁ……わかった、大石が留年したら僕も困るからな。僕が教えてあげるよ」
「本当に!? やったー! これで留年の心配はなくなった!」
「その代わり、厳しくするからな」
「大丈夫! なんとかなるさ!」
と、言っていたくせに……
「あ〜、もうダメ」
それから図書室に向かい、勉強を始めてから30分が過ぎて、早速弱音を吐き始めた大石。
集中力なさすぎだろと呆れつつも、それ以上に僕は驚いていることがある。
「いくらなんでもこれは酷いな……」
まずは国語をやろうと思い、簡単な漢字の問題を出してみたのだが……
「『潔い』はい、これなんて読む?」
「……え? なにこれ……けつ、い?」
「『いさぎよい』だよ!! じゃあ次は『精進』。これは?」
「『せいしん』!」
「『しょうじん』だよ!」
この有様である。
そして国語を諦め、次に理科の簡単な問題を出してみようと思い、化学基礎の教科書を開く。
「お! 私、理科なら得意だよ!」
「……言ったな? 『C』この元素の名称は?」
「Cだから……Cは『海』!」
「それは『sea』だろうが! もう元素じゃなくなってるよ! 答えは『炭素』!」
理科は得意、と言っていたにもかかわらずこれでは話にならない。よくこの学校に合格出来たなと思う。
うん、もう諦めるしかないな!
「ちょ、ちょっと酒井くん! もう諦めたって顔しないでよ! 私頑張るからぁ!」
斯くして、これから毎日のようにこの
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