悪役令嬢は氷の貴公子と円満婚約破棄計画を立てる〜やるからには全力で演じきりますわ〜

白うつぼ

第1話悪役令嬢は演じる

 食堂のとある一角、生徒会専用のテーブルを囲い談笑する、前世では普通だったがこの世界では珍しい艶のある黒髪の少女にズンズンと近づいていく。

 遠巻きでひそひそと黒髪の少女に対して不満を漏らしていた令嬢達が私が少女に近づいて行くのを見て流石、エレノア様ですわ!あの私生児を罰して下さいまし!と声をあげる。


 令嬢たちの声を聞いてか、テーブルについていた副会長であり魔法省大臣を多く輩出してきたコンラート・ディノス、会計で帝国一の騎士と名高い父を持つクリストフ・ゲーアノート、少女の執事であるオスカー・セバスティンが怪訝な眼で私を見てくる。

 生徒会長であり継承権第1位のこの国の王子で現婚約者のセザール・ヴィーク・ジークバルトはにこやかに(ただし目は笑ってない)、書記で父が国の要となる辺境伯であるヴォルフガング・フォルスターは頬杖ついてにやにやと笑みを浮かべている。


「あら、皆さんお揃いで。御一緒しても?」

「あ!エレノアさん!どうぞこちらへ!!」


 黒髪の少女、栗原里奈ーリナ・クリハラ・バーキンーがガタッと音を立て椅子を引くと近くの椅子を持ってきて自分が座っていた椅子の隣に置きどうぞと私をエスコートしようとする。

 ぴくり、と片眉がひきつる。


「リナ様!」


「はひっ…!?」


 喜んでくれるかと思いくりくりと見たものを引き寄せる魅力的な黒の瞳で期待してこちらを見ていたリナ様がビクッとする。

 殿下は眉をぴくりと動かし、ヴォルフは興味無さげに自分の髪をいじって、残りの生徒会メンバーとリナ様の執事の目が更に厳しいものになり、内心ドキドキしながらすぅっと息を吸い込み畳みあげた。


「貴方はまがりなりにもバーキン侯爵のご令嬢。ですのになんですかその立ち上がり方!殿方の前ではしたない!それに椅子をご自身で持ってくるとは何事です!ここは執事に指示をする場面でしょう!そして令嬢がエスコートをするなんて論外ですわ!」

「す、すみませんエレノアさん!」

「エレノア、言い分は分かるけれどリナをあまりいじめるんじゃない。まだこの世界に来て間もないんだ。それに彼女はーー」

「”聖女”…分かっておりますわ。ですが、貴族の世界に……この学園に来た以上、マナーは最低限覚えるべきですわ」


 あぁ〜!殿下の言葉遮っちゃったー!!!


 声を潜め周りに聞こえずかつ生徒会の皆には聞こえる声音で最後は伝えつつ内心、少し…いや、かなり焦りながらも表情は変えずローズ色のウェーブがかった髪の毛を手でサッと後ろに靡かせ反対の手は腰に当て、そこらの子息なら一目見たら恋に落ちそうな笑顔を見せた。


 まあ、彼等には効かないんだけれど。

 …て、なんであんたが惚けているのよ!?あなたヒロインでしょうが!!!!

 素敵...とぼそりと呟いたのが彼等にも聞こえたのか一層私を睨みつける。


 ーしかも、殿下まで。


 いや、私女性だし。なんでライバル認定されないのいけないのよやめてよ!?私百合展開なんて望んでいないし!?


 唯一睨みつけていないヴォルフに目線でどうにかしろ!とメッセージを送るが、そっぽ向かれる。...両肩が震えていて、笑いを堪えているのが分かる。


 ……後で覚えておきなさいよ、ヴォルフガング・フォルスター!


「私、お邪魔でしたでしょうか?私も生徒会のメンバーですのでご一緒したいと思ったのですが、皆さんお話に夢中でしたし、先程まで席がございませんでしたけれど、マナー云々はさて置き、リナ様がわざわざ椅子まで用意して頂きました…ですがどなたもエスコートして下さらないから…(訳:早く座らせろ)」


 口元に手を当て落ち込むフリをする。ついでにローズピンクの瞳を潤ませる。あれ、私もしかして今なら前世で女優になれるんじゃないかしら?


「あぁ、ごめん。エレノアの可愛い笑顔に心を奪われていて失念していたよ。立たせたままにしてごめんね?」


 王族にしか出ないというロイヤルパープルの瞳が私を見て目を細め笑みを浮かべ、首を傾げる。絹のようなプラチナブロンドの髪がサラリと動く。

 その笑顔で殆どの令嬢がバタバタと倒れる音が聞こえるが、昔から知ってるその癖のある笑みは私にとっては背筋が凍る。


 ――…あ、怒ってるな、これ


 殿下は席を立つと先程自分が座っていた席に私をエスコートし座らせ、そのまま流れるようにリナ様を座らせその隣を占領した。


 ……独占欲丸出しですね、はい


 わたわたと私と殿下を交互に見るリナ様は置いといて、それで?と殿下が綺麗な笑顔で私に問う。


「滅多に来ない生徒会フロアにどうして君は来たんだい?」


 ――………きた。


 にやり、と思わず口角が上がり皆が不審(とは言っても殿下にはお見通しな気もするが)に私を見つめる。


「ここは生徒会専用のフロアでしょう?ですが、生徒会役員ではないリナ様がいらっしゃる...それはそれは皆様から不興を買うこと間違いなしです―――……そこで」


 パンッと手を打ち―――


「いっその事、生徒会役員に加入させませんか?」

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