最終話 (十束さくら視点)


 暗い夜道


 街灯が照らす光と家々から漏れ出る明かりのみに頼って、私達は歩いていた


「、、、で、いきなり夜の散歩に連れ出されたと思ったら何が目的だ? 流石に二人も困惑してたぞ。」


 ひとしきり会話を楽しんだ後、私は先輩に夜の散歩をしてみようと提案した


 先輩の言う通り、雪先輩も希ちゃんも不思議に思っていたけど、私達をふたりきりにしてあげようという優しさで深くは尋ねてこなかった


 その優しさに甘んじて、つかの間の散歩デートへと興じている


「この道、覚えてますか?」


 足を止め、先輩の問いに、私は問いで返した


 失礼な言動だけど、まずはこの質問から始めよう


「この道? 、、、あっ。」


「お気づきになられましたか。 そうです。 ここは、私が先輩を初めてストーキングした道です。」


 あの時に先輩からフラれ、そのショックで気が動転して、何を思ったのかストーカーになるという奇行に移ってしまった現場


 そんな場所を、彼は懐かしむ目で眺めていた


「、、、まだ記憶に新しいよ。」


 私も先輩も、あの時のことを頭の中に映していた




「あの出来事はかなり衝撃的だったよ。 ストーカーにつけられるなんて当然初めてのことだったし。」


「気が動転していたとはいえ、私ったら何をしていたのでしょうか、、、まぁその後も続けたんですけどね。」


「ホントそれ。」


「しかし先輩も非があると思うのですよ。 いくら先輩の背景が特殊であったからといっても、、、あれはひどすぎです。 あそこまで頑なに信じなくても、、、」


「まぁ、当時は本気でお前からの好意を信じてなかったからなぁ。 また嘘告する女子が現れたんだな、って。」


「本気の告白に対して浅すぎます!」


「でも本当にそう感じてたんだよ、、、」


「じゃあ、今では?」


「今は、、、本気で信じてる。」


「嬉しいです。」




「、、、思えば、お前とこうして話せているのも、嘘告も含んでいるからなんだよなぁ。」


 先輩がふと、そんなことを言った


「どういう意味でしょうか?」


「いや、特別深い意味は無いんだが、、、さくらのことを、自分よりも信じれているのは、、、やっぱり嘘告で心が壊れていたからってのもあると思ってな。」


 嘘の告白によって心を壊していたからこそ、割れた心の底から、私を信じることが出来たということですか


 、、、そう思うと、先輩を苦しめた嘘の告白を憎みづらくなっちゃうじゃないですか


 そんなふうに葛藤していると、先輩が笑みを浮かべながら訂正してきた


「でもやっぱり、さくら。 お前だからなんだ。」


 思わず目を見開いてしまった


「俺がフッても諦めず、アタックし続けてくれていた、、、そんなお前だからこそ、やっぱり俺は救われたんだ。 だから、ありがとうな。」


「、、、なんですかそれ。 恋愛漫画の最終回みたいなこと言っちゃって。 らしくないですよ。」


「だな。 らしくない、、、でもここいらで区切りを付けておくべきだと思う。」


 え、、、区切り?


 何を言っているんですか?


 そんな不穏な言葉を使わないでください、、、まさか別れ話でも言うつもりじゃないでしょうね⁉


 そんなの、、、そんな、、、




「俺はさくらを愛している。 好きだ。 だからずっと、、、一緒にいてほしい。」


 別の意味で予想外な言葉だった


 不意にため息が出てしまう


「はぁ、、、」


「な、なんだよ。 一世一代のプロポーズだってのに。」


「先輩はちゃんと私を見てきたんですか?」


「? 何を言って、、、」


「私は先輩が大好きなんです。 告白しました。 ファーストキスもハジメテも捧げました!」


 一言ごとに一歩を進め、先輩にどんどん近づいていく


「お、おう。」


「大切なものを、添い遂げたいと思う人以外に軽々しく捧げるような女じゃありませんよ、私は。」


 先輩とは、もう目と鼻の距離だ


「それにご存知でしょうが、、、ストーカーになるくらいに、愛が重くて面倒くさい女なんです。 だから、絶対に逃してあげません。」


 何度も言っているというのに、、、先輩が私を放さないんじゃないんです、私が先輩を逃してあげないんです


「ってことは、、、」


「、、、当然、お受けしますよ。 まだ口約束のみでの関係ですが。」


 自然と顔が赤くなる


 今はそれが見られるのが恥ずかしくて、、、


「ッ!」


 キスをした


 昨晩したような深いキスではなく、小鳥が啄むような軽いキス


 だってその方が、次にあった時に先輩が欲しがりになってくれそうだから


 今、先輩は荷物を全て持っている状態


 だからここでお別れして、次にお預けしておこう


「それじゃ、また明日ですね。 先輩♡」






 先輩の嘘告も、私のストーキングも、どちらも最善だったとはとても言い難い


 でも、、、その2つがあるからこそ、今の私と先輩がいる


 それだけじゃない


 雪先輩に希ちゃん、千歳先輩に和恵さん、、、過去を重ねて、関係を築いてきた人達


 だから、えっと、、、


 とにかく、私と先輩の話はここで一旦終わり!


 、、、これからも色々とあるかもしれないけど、ね♡



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