第87話
「ちょっ、強く引っ張って脱がさないで!」
「でもこの紐かなり固く結ばれてて、、、やっと解けた。 ってあと三本もあるの?」
「痛たたた!」
万丈に来てもらった後、事情を説明して無理矢理アイツのメイド服を脱がさせてもらった
彼氏と言えど女性の服を力尽くで脱がすのは倫理的にダメなので、同じ女子、それも親友である万丈に来てもらったというわけだ
メイド服で後夜祭に来ようとしていたことを話すと、呆れた表情で黙ってさくらを幕の裏に連れ込み、脱がし始めた
あの時の万丈の表情は、、、なんとも筆舌し難い
親友の暴走に呆れてはいるのだが、一途に元気な様子を見て安心しているような、、、まるで子に困る母のような表情だったと言うべきか
それでもさくらと付き合ってくれているのだから、感謝しかない
、、、のだが、彼女が不利益を被ることになっては流石に申し訳無さすぎるので、これからはさくらに少し厳しい目を向けるようにしよう
5分後、元のカフェ店員服に戻ったさくらと万丈が出て来た
「ふぅ、メイド服のまま向かう予定だったのでキツく締めてもらったことを忘れてましたよ。」
「いきなり呼び出してすまない、万丈。」
「いえいえ、さくらのお世話をするのも私の仕事だと割り切れば、、、」
「いやほんとごめん。 今度付きっきりで勉強教えるわ。」
「おっと? 彼女の目の前で浮気発言ですか?」
誰の所為だと思ってやがる、、、
「違う。 あと文化祭で気分が上がっているのは悪いことではないが、もうちょっと限度を理解しろ。」
「むぅ、、、確かに気分が乗っていましたから、正常な判断が下せていませんでした。 希ちゃん、色々と迷惑かけてごめんね。」
「気にしないで、って言いたい所だけど、百瀬さんから勉強を教えてくれることを許可してくれるなら、ね?」
「ん、事前に話してくれれば私も特には、、、誰かさんは
「すまん。」
なんかさっきから謝ってばっかだな、俺
「それより早く後夜祭に行きましょう!」
全校生徒の殆どが集まり、本祭の熱が冷めきっていない様子で待つ体育館は、普段とは違う雰囲気が漂っている
ギリギリあと数分のところで間に合った俺たちは、後ろの方の席に座る
「私と希ちゃんは初めての後夜祭ですけど、例年はどんなことをするんですか?」
「去年は確か、、、生徒会長と風紀委員長の挨拶、文化祭での色々な部門の非公式な優秀賞を発表、で最後に踊りたい人は音楽に合わせて踊る、って感じだったな。」
「なら一緒に踊りましょうね。」
「今年も同じとは限らんだろうが、、、」
「二人共静かに。 そろそろ始まりますよ。」
万丈の注意を受けて俺たちが黙ると、照明が消された
併せて生徒も黙ると、ステージの幕が徐々に上がっていった
台が一つ見え、そこに生徒会長と風紀委員長が現れた
二人は文化祭の成功が嬉しいことや、特に大きな問題がなく終えれたことを話す、、、ここまでは去年と同じだな
さて、ここからどうなるのか、、、
再び暗転すると、何処からか軽快な音楽が流れてきた
何が起こるのかと緊張していると、パッと幕が上がる
「さぁ、今日は私たちのライブを楽しんでってね〜!」
ステージには九重を中心にして、四人の女子が横一列に並んでいた
九重含め全員が明るい服を着ていて、まさにアイドルグループ
彼女らは音楽に合わせて歌って踊り始めた
そんな九重を見た俺たちの感想は、、、
「「「は?」」」
5分程度のライブを終え間髪入れず、キャップを被ったラフな格好の男子集団が現れ、ブレイクダンスを踊り始めた
ここまで来れば、今回の後夜祭のテーマは分かる
「なるほど。有志の生徒が各々の演目を披露する、ステージ発表って感じか。」
「宴会芸をなさってる方もいますし、ごちゃまぜで本当に有志で発表してるんですね。」
「あぁ〜手品で滑ってる人が涙目で帰っていって、、、これって割と鬼畜じゃない? 全校の前で冷められたら立ち直り難しいわよ。」
確かに、九重の後に10グループとハイテンポで登場していったのだが、悲しいことに滑ってしまったグループがいる
それでも観客から慰めの声が無かったわけではないので、最悪な域に達してはいないのだが、、、
「あら、これは文化祭の写真に映るための競争なのよ? 甘いことは言ってられないわ。」
「お、全校生徒の前でアイドル活動した九重さんじゃないですか。」
着替える時間が取れなかったようで、ステージのアイドル衣装のまま九重がやって来た。
「こっ、これは友達に誘われて仕方なく乗っただけで、、、」
「その割にはノリノリだったけどな。」
「あうぅ、、、」
「いや彼女の目の前で他の女とイチャついてないで早く説明してくださいよ。」
ステージ上にいないはずの俺が、隣から冷めた視線を向けられてるんだが
顔を赤らめていた九重が我に戻り、説明を始めた
「そ、そうね。 えっと、実はこの文化祭後にハイライトをまとめた写真集を作って販売するらしいの。 あのステージで活躍できればハイライトに認められ、写真に多く載れる可能性がある。 でも失敗してしまったら載れないということよ。」
「これ考えたやつひねくれすぎだろ。」
要するに、場を一番盛り上げた人が得をするので、参加者は必死で練習する。
その演目を見て観客は盛り上がり、後で運営は販売する写真集で利益を得る。
販売者側は、人の目立ちたがりな心理を利用して苦労せずステージを盛り上げることができ、また写真集で一方的に利益を得られるということ。
こんなん策士を通り越して捻くれ者だよ。
「まぁ全員がハッピーなわけだし、別にいいんじゃないですか? 今はステージを楽しみましょう!」
「そうだな。 深く考えても今更だし。 じゃあ九重も一緒に見ようぜ。」
「それじゃご一緒させてもらうわ。」
「私の隣の席が空いているのでどうぞ。」
「ありがとうね、万丈ちゃん。」
こうして俺たちは4人で、後夜祭のステージを楽しんだ。
その後、昨年と同様にダンスパーティーが開かれ、半ば強制的にさくらと踊らされることになったりしたのだが、、、これは別の機会があったらそのときに話そう。
一年前の俺がもし聞いているのなら、、、今年は文化祭を最高に楽しむことが出来たと伝えたい。
何度目になる言葉か分からないが、、、全て隣りにいる彼女のおかげだ。
溢れる想いを留めきれず、そっと彼女の手を握る。
握った後に、『あ、これキモいムーブだ。 カッコいいのはイケメン限定だわ。』と気付き慌てて離そうとしたのだが、逆にがっしりと掴まれる。
照明に映える彼女の横顔には、いつもの笑顔が浮かんでいた。
耳元に口を近づけられ、こそっと囁かれる。
「絶対に、離したり逃したりしてあげませんから♡」
、、、本当に、敵わないな。
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