第62話


「キャーー!」


「ワーーッ!」


 勢いよくウォータースライダーの二人乗りボートは滑り、水しぶきが顔にかかる


 スライダーの出口が見えると同時に、俺たちは水中に突っ込んだ


 なんとも言えない爽快感が突き抜ける


 プールサイドへ上がるついでにボートも引っ張り上げ、さくらが水中から上がってくるのを待つ


「、、、ぷはーっ、楽しかったですね、先輩!」


「あぁ、とても楽しかったよ。」


 さくらが1番やりたそうにしていたスライダーだが、本当に楽しかった


「ほい。」


 彼女がプールサイドへ登れるように、ボートを掴む手とは反対の手を差し伸べる


「あ、ありがとうございます。」


 さくらはその手を掴み、俺が引っ張ると同時に彼女も登ってきたので勢いがつき過ぎて俺の体に軽くぶつかってしまった


 当然、さくらの女性らしい柔らかさを感じてしまうわけで


 身長差的にさくらの頭を見下ろすようになっていて、微かな良い香りにさくらの女子力も感じてしまうわけで


「わっ、すみません、、、いえ、ご褒美でしたね♡」


 直に伝わっている気恥ずかしさから言葉を失ってしまい、おかげでさくらのからかいに反論も出来なかった




 係員の方にボートを渡した後、今は設置されているパラソルの下で涼んでいる


「早く離れなさい。」


 今も俺の腕を抱えながらこちらをニヤニヤしながら見てくるさくらに注意した


 プールを移動している間は常に密着されていたので、この柔らかさが初めて感じるというわけではないのだが、何度やられても慣れない、、、


「え〜なんでですか? 先輩も嬉しいくせに♡ 可愛い後輩の肉体が密着してるんですから、もっと楽しみましょうよ!」


「肉体とか楽しむとか言うな。」


 するとより一層カラダを押し付けてくる


「うふふ、これでヘタレな先輩もオオカミさんになりましたか?」


 、、、なりかけだからマジで危険なんだよ!


 たとえコイツが許したとしても責任を取れるようになるまで手を出さないと自分の中で決めたのに、ここに来て理性がグラついてきている


 自分はそういうのに耐性があると思っていたが、いざ水着で誘惑されると動揺を隠しきれない


 所詮、自分はクールぶっていただけの陰キャだってのかよ、チクショウ!


 さくらが散々俺のことをヘタレと罵っていたが、本当にその通りだったんだな、、、


「いい加減離れなさい。 周りの人が見てるでしょーが。」


「見せつけてるんです。 だって男性が私のことをジロジロと見てたんですよ?」


「は?」


 頭を動かさず、目だけを動かして確認してみたが、、、本当だった


 さくらを見る野郎の目が、、、俺が隣にいなかったら直ぐにでもナンパしそうな雰囲気だ


「なんで教えなかった?」


「先輩との初プールを楽しみたかったからです! 先輩が嫌な気分になられたら、私も楽しめませんし。」


「俺はお前が下卑げひた目で見られる方が嫌なんだよ。 教えてくれたら早めにこうしてたのに、、、」


「あ、、、」


 念の為に持っていたタオルをさくらの肩に掛ける


 これで多少は肌の露出部分が少なくなった


 こころなしか、さくらを見る野郎の目が少なくなった気がする


「心配してくれてありがとうございます。 それに、、、独占欲を出してくれて嬉しいです。」


「不思議なやつだな。」


「そうですか? 大切にしてくれてるんだって思えるので私は好きですよ、独占されるの。 ちなみに先輩を独占することも好きです!」


 うーんヤンデレ気質


 ま、そういうところも好きなんだがな


「まずそんな視線を感じたら嫌悪していいんだ。 あと、次からは肌の出し過ぎには気をつけろよ。 さくらはその、、、可愛いんだから。」


 うわ恥っず!


 俺にこんな甘いセリフは似合わんだろ


 今までのやらかしでいい加減学習してるだろうに、、、またコイツにからかわれるな


「、、、えへへ。」


 あれ、顔真っ赤にしてる


「その、あのですね、、、可愛いって言ってもらえて嬉しくて、胸の奥が熱くなって。 好きって気持ちが爆発しちゃいそうで、やっぱり、、、大好きです。」


「赤裸々に心情を言うんじゃありません! 俺がもっと恥ずかしくなるだろうが。」


「やっぱり恥ずかしかったんですね?」


 しまったやらかした


「大丈夫です、私も言われて恥ずかしいですから!」


「追い打ちかけんな。」


「、、、その何倍も、幸せなんですケド。」



 、、、あぁもうなんだよコイツ、可愛すぎるだろ


 今度は体全体を預ける形に寄りかかってきたのだが、何故か先程までの動揺や過剰なドキドキが消えている


 寧ろ温かさを、、、落ち着くような温かさを感じた


 そして暫くの間、俺たちは水の跳ねる音と他の客の楽しげな声に耳を傾けながら、こうして体を預け合った

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