第91話 獣人スタンの忘れられない一日③

 さっきは驚いた。

 タイタン様の像が破壊された。

 

 周囲に人がたくさんいた。


「みんな!!!! 像から離れろ!!」


 誰かの注意喚起の声が響いた直後の事だった。


 爆音と共に砕ける像、飛び散る破片。

 俺は他人より大きな身体で飛んでくる破片から庇おうとした。

 これは怪我じゃ済まないかな。

 人を守って死ぬのなら悪くはない‥‥‥。


 あの一瞬でそんな事を考えていた。


 破片は飛んでこなかった。

 無数の破片は全て宙に浮いていた。



 一人の青年が手を翳していた。開いた手を握り込むと破片は集まるように動き、タイタン様の像は元に戻った。

 まるで回復魔法で傷が再生するかのように。



 そしてその青年と三人の女が宙に浮いて、空を飛んでいった。


 ひとつ言っておくと、ビックリし過ぎて声も出なかった。


 空を飛ぶ人間は見た事がない、御伽話で聞いた事があるだけだ。


 頭を下げ身を伏せていた人達は

「ん、あれ? タイタン様の像が元に戻ってる。確か破壊されたはずなのに‥‥‥?」

「神の像だぞ、奇跡が起きても不思議じゃない」

「俺たちのタイタン様だ! あんな攻撃、屁でもねぇに違いねぇ!」


 盛り上がっている。あの青年の事は黙っておく事にしようか。あの目配せはきっとそういう意味だろう。


 

 本当に今日は驚く事ばかりだ。

 鉄の柱だったタイタンの角が抜けて地震のようになり、それがタイタン様のお姿となった。

ユピテル教の本教会を吹っ飛ばしてぶっ壊したと思ったら、どこからか攻撃を受けて胴体に風穴が空いた。謎の青年が被害をほぼゼロにしてくれて、さらにタイタン様の像まで直していき、空を飛んでどこかに消えていった。


 全く俺の人生でこんなに驚く日はもうないだろうし、今日はもう何が起きても驚かないだろうぜ。


 ‥‥‥‥‥‥


 あー、‥‥‥言ってすぐで済まないがまた驚くべき事態に遭遇している。


 タイタン王国の鉄の船、グランホルストが空を飛んでいた‥‥‥。

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