第86話 獣人スタンの忘れられない一日②


「おい‥‥‥? なんだ、アレは?」

「いやぁ‥‥‥? わからない‥‥‥」


 タイタンの角が宙に浮かんでいる?

 あんな巨大なものが宙に浮くのか?

 何かの魔法か?


 俺も含めた周囲のヒト種も獣人も呆気に取られてその想像も出来なかった光景を眺めていた。


 やがてタイタンの角が形を変えていく。円柱の鉄の塊がウニョウニョとスライムのように流動し始め、人の様な形を作っていった。


「!! あ、あれは‥‥‥、まるで‥‥‥」

 タイタン王国の国民であればほとんど皆一度は目にしたことのある大地の神タイタンの姿だった。

 この地にタイタン様が顕現なされたのだ。


 ズズーーーーーーン!!!!


 大轟音と大揺れと共にタイタンの鉄像は大地に降り立った。

 最初は何か不思議な動きをしていたが、直に落ち着いてゆっくりと歩き始めた。


 一歩毎に大地が揺れ響く。

 ある方向に向かっているようだ。

 そちらの方向から教団騎士兵がわらわらと集まってきた。


「な‥‥‥、なんなんだ、コイツは!?」

 タイタン王国に居て解らぬはずがないだろう? 大地の神タイタン様だよ。

 お前たちの信じるユピテル様は顕現なされないようだな。


「弓兵、構え! 射てぇ!!!!」

 ヒュヒュヒュヒュヒュヒュン!!!!

 カカカカカン!!!!


 当然効くはずがない。

 全く動じる様子もなく、歩みを続けている。


「くっ、引けっ!! 引けーー!!!!」

 教団騎士兵達は本教会の方に引き返して行った。


 本教会の前に来てゆっくりと左腕を天に掲げる。右手で左肘の辺りを何かしている。腕の防具の具合を確かめる様な仕草だった。


 左肘付近が黒く染まっていく。

 あれが大地の神の御業なのか‥‥‥?


 やや前傾姿勢になり、突進して左腕を大きく振り抜いた。


ズガガガガーーーーーーン!!!!


 本教会の二階から上や隣に建っている尖塔も全て吹き飛んだ‥‥‥。正に神の所業だ。


 タイタン様の化身は真っ直ぐ立ち上がり右の握り拳を天に突き上げ、人差し指と小指を立てた。

 あのポーズは‥‥‥、牛獣人の間で伝わっている長い角と頭を模した「ロングホーン」だ。

 何故、タイタン様が‥‥‥?


 その瞬間に太陽が射し込んできた。

 タイタン像が反射して輝く‥‥‥。

 なんと神々しいことか‥‥‥。

 

 気が付いたら俺の両頬は涙で濡れていた。

 

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