010:二つの問題
空に向かって開け放たれた天然のトップライト……代わりのボロ屋根に開いた大きな穴から朝日がこぼれ落ちてくる。
俺は目を覚まし、あくびと共に大きく伸びをした。
薄い布団の下に温もりを感じる。
隣で下着姿のまま俺にくっついているのはサンだった。
困った。
これは動けない。
気持ちよく眠っているサンを起こすのも可哀そうなのでしばらくじっとしている事にした。
いろいろと考えたいこともある。
まずは、これからどうするかだ。
現状の問題点は二つある。
一つはこの森の事。
ここは中央王国の外にある小さな村の、さらにその外れにある森の中だ。
そしてこの小屋は森の中にあったいつ倒壊してもおかしくないボロ小屋である。
サンは少し前からここを拠点にしてこの森で行動しているようだ。
森の名は地名からネラレッドの森と呼ばれているらしいが、今はもう一つの名前を持っている。
それが「出られぬの森」だ。
一度足を踏み入れたら二度と戻ってこられなくなると言う曰くつきの呪われた森である。
俺は何も知らずにそんな森に迷い込んでしまった。
誰も近づかないような森ならば姿を隠すのには最適なのだが、一生ここから出られないのはさすがに嫌だ。
そしてもう一つは、ゴリが消えた事。
瀕死の状態のまま意識を失っていたため俺が背負って逃げてきたハズなのだが、いつの間にかいなくなっていた。
王国を出た後でいつの間にか背中から消えていた。
その時の記憶はかなり曖昧だ。
限界が近かったのだろう。
だがゴリが何も言わずに居なくなるとは思えなかった。
まるで夢でも見ていたのだろうか。
それとも逃げるのに必死で城に置いてきてしまったのだろうか。
いや、そんなことはないとは思う。
背中に感じたゴリの匂いや温もりを俺は確かに覚えている。
一体何が起こっているのか、今は分からない。
無事でいてくれると良いのだが、やはり心配だった。
「んぅ……ん~……」
サンが起きたらしい。
寝ぼけたままの青い瞳と視線が合う。
「おはよう」
「おはよ~……」
ふにゃりと笑うとサンはそのまま二度寝した。
ほんの一瞬だけ。
「んなっ!?」
自分の姿に気づいて瞬間的に意識が覚醒したようだ。
飛び起きると同時にガバッと頭から布団をかけられた。
何も見えないと思いきや生地が薄いので透けて見える。
サンは真っ赤な顔でこちらを見ていた。
ちょっと涙目になっている。
「み、見た……?」
「見てない」
何を、とは言わない。
多分ふにゃふにゃのかわいい寝顔とか少し大人びたかわいい下着とか、その辺の事だろうと思うけど、言わない。
思っても口に出さないのが紳士だと思う。
「そ、そう。なら良いわ」
サンが起きてくれたのでやっと行動できる。
お互いに服を着替えてから朝食をとるのがこのボロ小屋での朝のルーティーンだ。
もちろん朝食はサンの手作りである。
この世界では一日に三度の地獄が訪れるのだ。
一度目は朝食、二度目は昼食、そして三度目はもちろん夜食。
「朝食を用意するわね。アナタはそこで待っていて」
もう動ける程度には元気になっているのだが、サンが「まだ用心しなさい」とベッドから出してくれない。
サンにとって俺は命の恩人らしい。
俺と出会い、そしてあの大蛇を追い払わなければサンは命を失っていたと言う。
あの大蛇がそれほどの脅威には見えなかったのだが、騎士や勇者でない人間からすれば十分な脅威なのだろう。
おかげで俺はサンにずいぶんと懐かれている……と思っていたのだが、実はペット扱いされているだけな気もしてきている。
「いや、もう大丈夫だ。それにそろそろ体を動かしたい。狩りを手伝うよ」
サンは毎朝狩りに出かけては何故かボロボロになって魚を釣って帰ってくる。
なんとなく想像は付くのだが、どんな狩りをしているのか気になった。
それにあの大蛇も追い払っただけで倒したわけではない。
一人にするのは少し心配だ。
「そ、そう……じゃあ、足を引っ張らないでよね」
なぜか目が泳いでいる主の許可を得て、一緒に森の中を探索する事になった。
基本的にはサンの後ろをついていくだけのつもりだったが、道中で転びそうになるのを何度か助けた後、危なっかしいので俺が先を行く事にした。
「か、勘違いしないでよねっ!? 別にいつもこんなんじゃないんだからね! 今日は運というか、ちょっと調子が悪いだけなんだからねっ!?」
これはツンデレに含まれるのだろうか。
「わかっている。そこ、地面の木の根に気をつけてな」
「わ、わかってるわよ! きゃあ!?」
結局、サンがボロボロになる前に俺が抱えて進むことにした。
「きょ、今日は調子が悪いだけなんだからぁ……」
「調子が悪いなら仕方ない。そんな日もある。俺は元気だから心配するな。ちょうど何かを抱えているくらいがちょうど良いなと思うくらい元気だったんだ」
「なによそれぇ……」
涙目になっているサンも可愛いが、お世辞にも狩りが得意なタイプとは言えないようだ。
足場の悪い道に慣れていないようだし、そもそも隠密行動できないタイプに見える。
それでも毎日、俺のために食材を取りに行っていたのだと考えると、素直にうれしい気持ちになった。
「いつもこんな大変な目にあってたんだな。ありがとう」
「べ、別にアンタのためじゃないんだからねっ! 勘違いしないでよね!?」
真っ赤な顔で否定された。
サンはやっぱりツンデレだ。
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