007:勇者、追放される
俺の「ドン!」が部屋の全てを破壊した。
その場に立っているのは俺と、そして王であるイヨだけになった。
「試練の儀式でかなり消耗してきたようだなぁ~~~? 無理もないぜぇ~~~、アレから生きて帰ってきただけでも普通ならあり得ねぇ話……奇跡なんだからよぉ~~~」
他の騎士たちは全て吹っ飛ばされて地面に転がっているが、王だけは耐えたらしい。
気だるそうな表情のまま平然と立っている。
「い、いたいぃ……たすけて……」
「がはっ……うぅぅ……バ、バケモノめ……」
騎士達も死んではいないようだ。
だが大ダメージを負っていて、しばらく立ち上がる事は出来ないだろう。
死者が出なかったのは奇跡だと思う。
ある意味、神との闘いで極限まで疲労していたおかげだ。
少しだけ神に感謝だな。
おかげで人殺しにならなくて済んだから。
そしてこれで、あとは俺と王との一騎打ちというワケだ。
もちろん状況は明らかに俺が不利だがな。
衝撃波が効かないならば、残された手は神殺しの技……「ダイレクト・ドン!」しかない。
好都合な事に、王は疲労で座り込んだままの今の俺に対して明らかに油断している。
決めるなら一撃で。
短期決戦で、一瞬で決める。
「悪いねぇ~~~、今このチャンスを逃すつもりはねぇからよぉ~~~……確実に仕留めるぜぇ~~~?」
バチンと、音を超えて何かが俺を打った。
超高速の攻撃。
王に触れる事に意識が集中していた俺は、反応が遅れた。
「……っ!?」
悲鳴も出ない衝撃が体を駆け抜ける。
それは痛みよりも痺れだった。
王の身体から青白い光が生まれ、バチバチと鳴っている。
電気だ。
「お前を殺せるとしたら今しかねぇんだわ~~~……だから、油断はしない」
王が俺を指さした。
全身が帯びる電気がその指先に収束する。
「
ピシャリと鼓膜を打ち破るような雷鳴が轟いた。
収束した電気が真横に落ちる雷の如く放たれる。
本能が危険を察知していた。
「うぉぉぉおぉぉぉぉ!! ドンッ!!」
俺は叫びながら床を殴った。
床への打撃と共に衝撃波を発生させる新しい「ドン!」……名付けて「床・ドン!」は明らかに今までよりも威力を増している。
――バリィ!!!!!!
――ドンッ!!!!!!
雷鳴と「ドン!」。
衝撃波が雷撃とぶつかり合い、弾けた。
雷に引き裂かれた空気がバリバリと悲鳴を上げる。
乱反射する雷は壊れた部屋を飛び出して城の中をもめちゃくちゃに破壊した。
どこか遠くで悲鳴が聞こえた気がした。
「おいおいおいぃ~~~。参ったねぇ~~~、その状態でも俺のガチの攻撃を弾くとかさぁ~~~……マジで人間かよテメーはよぉ~~~??」
王はそんな周囲の状況などまるで気にもかけず、ただ面倒くさそうに頭を掻いた。
「ったくよぉ、派手にやりすぎたなぁ~~~。まー、殺せないんじゃあ仕方ねぇか~~~」
王は近くに倒れていた騎士の装備品である剣を拾い上げると、躊躇いもなく自らの左腕を切り落とした。
「なっ……!?」
何をしているのか、狙いが分からなかった。
ただいつ攻撃されても反応できるようにだけ身構える。
だがそれは悪手だった。
この状況が、そして王の狙いが理解できたのはすぐ後だ。
「きゃあああああ!?」
今度の悲鳴は近かった。
クラスメイトだ。
「野寺間……?」
「おい、なんだよそれ……」
騒ぎを聞きつけたクラスメイト達がいつの間にか集まってきた。
みんなも試練を受けていたハズだが、先に終わって城に戻っていたらしい。
先ほどの衝撃と音で異変を感じたのだろう。
ここへ集まってきたのだ。
そしてこの状況を目の当たりにした。
俺の目の前には片腕を失って血の海に倒れる王。
破壊されつくした部屋。
倒れるゴリ。
いつの間にか血まみれの剣も俺のそばに転がされていた。
誰が見ても悪者は俺だ。
王はクラスメイト達が来ることを予想して次の手を打っていた。
「ぐはっ……! う、ぐぅ……!」
さっきまで平然と立っていたくせに、王は自ら作った傷を抱えてうずくまっている。
歯の間から零れるような唸り声に、全身から噴き出す汗。
見事な演技だと思う。
「ま、待てみんな。これは……」
「みんな気をつけろ!! この男は試練を受けるために我々の騎士を無理やり試練に連れ出したのだ! その結果がこのあり様……この男は邪神と契約して力を手に入れて帰ってきてしまったのだぁ!!」
俺の言葉は遮られた。
最初に見た時の温和で信頼のおける大人としての王の姿から、全てが嘘で塗り固められた言葉が次々と吐き出される。
「違う!! 騙されるな、コイツの本性は別人だ!!」
俺も必死で反論した。
何もかもデタラメだと。
俺は殺されかけたのだと。
だが誰も俺の言葉に耳を傾けはしなかった。
「この人殺し!!」
「お前なんか勇者に相応しくない!!」
「いくら自分のスキルがザコだからって人に迷惑かけて良いワケないだろう!!」
ザコ認定されていたハズの俺が力を得ているという事実。
そして傷を負った王とその騎士たちに対して無傷のままの俺がいるという事実。
城の人間も、クラスメイト達も、全てが王の味方だった。
「はやくこの男を倒してくれ!! このままでは世界に新しい危機が訪れてしまう!!」
王の言葉に、かつてのクラスメイトが剣を構えた。
クラスのリーダー的存在であり、そしてクラスの中で最強のスキル【剣の勇者】を得た男、
「やはりお前は選ばれるべきじゃなかった。お前をこの世から追放する……それが選ばれた者としての俺たちの責任だからな」
正義に酔っているかのような芝居がかったセリフだった。
本気で俺が悪だと思っているらしい。
そして自分たちは完璧な正義だと。
その表情を見て、もうここに俺の居場所はないのだと理解できてしまった。
「バカやろう……!」
俺は最後の力を振り絞って「床・ドン!」した。
――ドンッ!!!!!!
破壊されつくした部屋に衝撃波が発生し、砂塵のように瓦礫や埃が舞う。
かつてのクラスメイト……勇者たちが怯んだその隙に、俺は部屋に開いた穴から城の外に飛び出した。
こうして俺は城から、そしてクラスメイト達から追放されたのだった。
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