002:神の試練①


 俺の名前は野寺間のでらまくもる

 ゲームオタクなだけのどこにでもいるフツーで平凡な高校2年生だ。


 少し変わった所があるとすれば、クラスメイトと一緒に異世界転移に巻き込まれた事くらいで、そして勇者なのにザコ扱いされて、それから転移して一日目でこの世界でもぼっちになった事くらいだろうな。


「ゴリィ……」


 そして俺は今、謎のゴリゴリのマッチョと並んで暗い石畳の道を歩いている。


 この道は【試練の道】というらしい。

 道を進むと神が魔王の力を模倣して作ったという偽物の魔物たちが現れ、訪れた者の勇者としての力を試すらしい。


 スキルの力を解放するための試練の儀式に参加するには二人組を作らなければならない。

 それは神が定めた絶対の条件だ。


 だが試練の魔物は強く恐ろしいため、城にいる腕利きの騎士が一緒になって試練を受けても足を引っ張ってしまうのだとか。

 それほど勇者の力がズバ抜けているということだろう。


 だから勇者は勇者同士で二人組を作る必要がある。


 そもそも普段は偶数の人数で召喚されるらしいが、今回はなんか奇数になってしまったらしい。

 とっても迷惑な話である。


 だが試験を受けず、スキルの真の力を解放せずにいては真の勇者とは呼ばれない。

 そもそも戦力にもならないらしい。


 未覚醒のスキルはこの世界では「子供のままごとレベル」なんだとか。


 つまりそのまま魔物と戦えば普通に死ぬワケだな。


 という事だから「どうせ死ぬなら一か八かで試練を受けて死ねば良いんじゃね?」と軽いノリで何か変な奴と二人組を組まされたのだった。


「ゴリ……ゴリィ……」

 

 この何か隣でゴリゴリ言っているのが俺の相棒である何か変な奴だ。

 見た目はブリーフみたいなパンツ一丁の半裸でスキンヘッドなゴリゴリのマッチョである。


 なんか他の騎士たちから「姫様」とか呼ばれてたけど、いやいやいやいや、どこが姫だよ?


 ゴリゴリ言う度にこっちを向いているし、多分、俺に話しかけてるのだろうが……何て言っているのかまるで分らない。


「ゴリ……ゴリ……」


 自分を指さしながら言っているので名前なのだろうか。

 こいつの名前はゴリなのか。


「俺の名前は野寺間曇だけど」


「ノデ……」


 名乗ってみると初めてゴリ以外をしゃべった。

 最初の二文字だけで苗字すら言えてないが……まぁ良いか。


 ゴリは良く喋る。

 気まずい沈黙が出来ないように気を使っているのだろうか。


 ゴリはその後も相変わらず何て言っているのかは良く分からいままだったが、二人で歩く時間は不思議と嫌な時間ではなかった。


 考えてみればゴリは可哀そうな人だ。

 俺と二人組を組むという事は、つまり俺と一緒に死んで来いと言われたようなものだからだ。


 俺にゴリを守る力があれば良いのだが、残念ながら今のところ俺のスキルは超ハズレのザコ説というのが有力だ。


 そもそも【ドン!】って何なのかすらわかっていない。


 まず「ドン」の意味もわからないが、その後ろの「!」も謎である。

 そもそもスキル名に記号が入ってるやつなんて俺以外にはいなかったからな。


 イグアノドンとかプテラノドンとか、恐竜の名前の後ろとかに良くついている気がするが、何の意味があるのかは知らない。

 恐竜は好きだが、そこまで詳しく調べたりしたことはない。


 他に思い浮かぶのは漫画とかに良くある擬音……いわゆるオノマトペと言うやつだな。

 やはり音に関するスキルなのだろうか。


 試しに「ドン」って言って見ると何か起こるかも知れない。


 そんな事を考えながら道を進んでいると、急に暗い道が明るく光った。

 目の前が細長い意味から広い空洞に代わり、俺たちは巨大な真四角の部屋にたどり着いた。


「なにか……いる」


 部屋の真ん中には緑色の生き物がいた。

 背は低いが爪や牙、さらには耳や鼻までがやたら尖っていて狂暴そうな生物だ。


 振り返ると入ってきたはずの道がなく、ただ壁があるだけになっていた。


「ふむ。これが試練か」


 だったらこれが魔物だろう。

 こいつを倒せという事だな。


 俺は安堵した。


「俺たちの世界のゲームで言うなら……ゴブリンってところか?」


 神の試練と言うくらいだからもっと凶悪なドラゴンとかジャイアントなんかが出てくるかと思っていたが、これなら隣のゴリの方がよっぽど強そうに見える。


 小さいし、正直言ってあまり強くは見えなかった。

 もしかしたら試練の第一段階かも知れない。


 ゲームでもいきなりボス戦にはならない。

 いきなりキングは取れないのだ。


「ゴリィ!!」


 ゴリもそう思ったのだろう。

 気合十分に吠え、俺より先に駆け出していた。


 まるで俺を守る騎士のような大きな背中に俺も続く。

 頼しい背中だが、ゴリに頼りっきりにしては試練の意味がないだろう。


 少しでもスキルを試して理解しなければいけない。


 戦力外にならないために。

 ぼっちにならないために。


 そしてこの世界の神とやらに認められるために。


「さて、戦ってみるか……!」


 そんな俺たちを見て、ゴブリンは不敵に笑った。


 次の瞬間、ゴリが入口の壁まで吹き飛んでいた。

 むしろめり込んでいる。


「ゴリィィィィィィ!?!?」


 思わず名前を呼ぶと、壁にめり込んだまま震える手で「大丈夫」と言うようにサムズアップしてきた。


「ゴ……リ……」


 ゴリはそのまま動かなくなった。

 全く大丈夫ではない。

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