第125話 物理で解決を図りました

「さて・・・と・・・」


 美嘉が『絶望の黄昏』を解除する。

 さっきまでは、そこら中に破壊の痕跡があったけど、今は何も無い。

 そう、何も。


 襲ってきた人達の遺体も何も残っていなかった。

 あるのは、襲ってきた人達が壊滅して、消えてしまったって事だけ。


 実は、今回予め話し合っていた事があるんだ。

 それは、「明確に命を狙って来た相手をどうするか」って事。

 そして、僕達が出した結論は、「やるんなら徹底的に」という事だった。


 多分、これが一番早く終結し、結果命が失われるのが一番少ないだろうから。

 だいぶ揉めたけど・・・でも、最後はみんな納得した。

 多分、正しいから。


「戻りました。」

「あら?どうだった?」

「しっかりと決着をつけて来ました。」

「よく頑張ったね。」


 美咲達も戻ってきた。

 その表情は硬かったけど、それは多分初めて人を殺めた事だからだろうね。

 ・・・僕の時は、相手は盗賊だったけど、やっぱりショックを受けたからなぁ。

 美咲みたいに気丈に振る舞えるのは、やっぱり美咲の心が強いからだと思う。


 みんなも、それに気がついているようで、美咲と美玲、それと美玖ちゃんと翠さんに寄り添い、抱きしめている。


「美玲も、美玖も翠さんもよく頑張ったね。」

「・・・うん。」

「結構、気持ちがきつくなるのね・・・これが命の重みという事かしらね・・・」


 美嘉によると、この拠点代わりの別荘にたどり着いた人も数人いたらしい。

 そして・・・彼らは、美玖ちゃんと翠さんに処断されたんだって。


「みんな本当によく頑張ってくれたね。後は・・・任せておいて。」

「・・・私も行きます。」


 美嘉がそういうと、美咲が毅然とした態度でそう声をあげた。


「でも・・・」

「いえ、自分のやった事は最後まで見届けなければいけません。発端は私ですから。」

「・・・わかった。じゃあ、行くのは異世界組と美咲と美玲・・・瞬は残る人を守っ「僕も行くよ。」

「・・・」


 僕が行く事に、難色を示す美嘉。

 そして、それはみんなも同じだった。

 それでも!


「僕も行く。僕は、みんなの、みんなだけの剣だ。もう、僕は勇者じゃない。みんなを守る為なら、僕はなんでもやる。鬼にもなる。その決意は、誰にも否定させない。」

「シュン・・・」

「頼むよ美嘉。」

「・・・わかった。じゃあ、フォーティ、美玖と翠さん、それと『周防』の人達を守ってくれる?」

「任せろ。指一本触れさせん。」

「お願い。じゃあ、行きましょう。二度と手を出せないよう、徹底的にやるわよ。」


 僕達は向かう。

 その場所は・・・







sideケーシー


「何!?連絡がとれんだと!?どういう事だ!」


 わけがわからん!

 朝一に軍から連絡があった。

 現地で作戦行動していた中隊と連絡が取れなくなったと軍が騒然となっているらしい。

 衛星からの映像では、突然現地をドーム状に何かが覆うと、モニター出来なくなり、通信も遮断されたらしい。

 そして、それが解かれると軍は全て消えていたとの事だ。


 何をしたのか、何があったのかまったく判明していないだと!?

 どんな兵器だ!?

 そんなものをあの国が開発したなど聞いておらんぞ!?

 それに、デビットとも連絡が途絶えたままだ!

 どうなっている!?


「さっさと特定しないか!こっちは大金を払って・・・もしもし!!もしもし!?」


 突然、軍の本部との連絡が切れる。

 ちっ!切りやがったのか!?

 何度もかけ直すが繋がらない!

 何が起きてるっていうんだ!


 舌打ちをして電話を置く。

 一体、何が・・・取り敢えず出来ることも無い。

 連絡を待つか。


 





「だ、旦那様!大変です!!」

「なんだ騒々しい。」


 昼食を終え、休憩していると、使用人が血相を変えて飛び込んできた。


「だ、大規模テロです!軍本部はほぼ壊滅状態との事です!!」

「な、なんだと!?」


 いきなりの事で寝耳に水だ。

 この国の軍事機関にテロだと!?

 馬鹿げている!!


「どこの組織かはまったく不明との事!まもなく大統領の声明がだされるそうです!」


 急いでテレビをつける。


『それでは、記者会見を始めます。』


 フラッシュにたかれ、現大統領が現れた。

 その表情は暗い。


『建国以来、このようなテロは一度も無かった。だが、今回、まさか軍そのものを狙ったテロが起ころうとは誰もが想像をしていなかったと思う。犯行グループからの声明も無い。報復しようにも、軍が壊滅したいま、手段も無ければ相手もわからない。一体何が起きたのかまったくの不明だ。だが、一つだけ、犯行グループが残したと思われる書き置きがあった。それをこの場で読み上げる。』


 何を弱気な事を!

 徹底抗戦しなければ駄目だろうが!

 この国は、軍事大国としてのし上がった国だろう!!

 こいつは駄目だな。

 次の大統領は、もっと好戦的な者を選ばせる・・・


『「愚かなケーシー家。この報復は、貴様らに対するものだ。次はお前だ。首を洗って待っていろ。絶望の名にかけて貴様を消してやる。」以上だ。まったくもって意味がわからない。』


 ドクンッ


 心臓が大きく鼓動を刻んだ。

 頭が真っ白になる。


 な、なんと言った?

 ケーシー?

 ケーシーだと?

 それはまさか・・・ウチの・・・


『この、ケーシー家というのは、おそらく軍需大企業であるケーシー家の事だろう。当局は、ケーシー家に対して情報の開示と、取り調べを実施する・・・』


 大統領の言葉が耳に入ってこない。

 心臓が痛い。

 

「だ、旦那様?お顔が真っ青に・・・」


 使用人が声をかけてくるが、それどころではない。

 に、逃げなければ・・・


 ガチャッ!


「だ、旦那様!大変です!」


 他の使用人が飛び込んで来た。


「どうした!!」

「しゅ、襲撃です!本社ビルが襲撃を受け、半壊!!何故か人的被害はありません!何が起こっているのでしょうか!?」

「な、なんだと!?」


 本社が襲撃で半壊!?

 ど、どうなっている!!


「テロに関係があるのか!?犯行グループはわかっているのか!?」

「まったくわかりません!従業員の話では、気がついたら外に出ていたらしく、崩れゆくビルを見上げていたそうです!!」

「そんな馬鹿な!?」

 

 わからない!わからない!なんなのだこれは!!

 ふと、気がつく。

 これほどの行動をして、未だ犯人はわかっていない。

 このままでは俺も危ないのでは!?


「お、俺は今から出かける!良いな!!」


 こうしてはおれない!

 急いで海外に逃げなければ・・・うん?返事が無い?


 俺は室内を見回す。

 すると、二人の使用人が床に倒れ気絶していた。


 まずい!

 何かわからんが逃げなければ・・・


「どこに行くのだ?」


 室内に女の声が響いた。


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