第121話 一難去ってまた一難とはこの事でした

 美玖ちゃんの災難があった翌日。

 美玖ちゃんと美咲と美玲は、美玖ちゃんの現在の事務所の退所手続きと、新しい事務所への手続きに行くため、朝から出掛けているんだ。

 一応、護衛としてフォーティとラピスがついていってる。


 美嘉は、リリィとジェミニと一緒にアナザーワールドの経営に関する打ち合わせ中。


 翠さんは、周防関係の仕事を現在執務室でやってる。

 そして僕はというと、


「おいで〜メリー!」

「がう〜♡」

「あはは!やっぱりメリーは可愛いね〜!よしよし!」


 無人島でクォンと一緒にメリーと遊んでいるんだ。

 最近、どうしても忙しくて、メリーと遊べて無かったからね。

 思いっきり遊ぼうと思ってさ。


『主〜!くぉん〜!これ見て〜?』

「ん?何メリー?」


 メリーが拠点の近くの茂みに行き、何かを引きずってくる。

 それは大きな骨の塊。 


「へ〜?クマ?」

「おっきいね!メリー偉いね?」

『えへへ〜♡メリー頑張ったよ?』

「よしよし。」


 メリーによると、この拠点のある洞窟を巣にしようとしたクマらしい。

 最初は威嚇して追っ払おうとしたみたいなんだけど、攻撃してきたから、仕留めたんだって。 

 撫でながらメリーをしっかりと確認すると、特に大きな怪我なんかは見当たらなかった。

 良かったぁ、メリーに怪我が無くて。


「メリー、あんまり無茶しちゃ駄目だよ?」

『でもあるじぃ、メリー、みんなの為に頑張りたい。』

「でも、メリーが怪我したら、僕は悲しいよ?クォンもメリーが怪我したら悲しいよね?」

「うん?そりゃそうだよ。メリー?あんまり無理しないでね〜?」

「ほら、クォンも無理しないでってさ。わかった?」

『・・・は〜い。』


 でも、やっぱり心配だなぁ。


「あ、そうだ!」


 クォンがポンと手を打つ。

 なんだろう?


「メリーも鍛えてあげる!魔力があるなら、強くなれるよ!多分!」


 ・・・なるほど。

 僕が通訳してあげたらいけるかな?


「メリー、強くなりたい?」


 僕がそう言ったら、メリーはガバっと顔をあげた。


『メリー、強くなりたい!』

「よし、じゃあ、クォンと僕が魔力の使い方を教えてあげるね?あのね・・・」


 こうして、僕とクォンとメリーは楽しく過ごすのだった。


 面倒事が近づいている事に気がつかずに。






side美咲


「これで、手続きは終了ですね。」

「うん!ありがとう美咲ちゃん!」

「いいえ、どう致しまして。」


 私は、新しい事務所で所長を交え話をし、美玖さんと、


「周防様、ありがとうございました。」

「いえ、気になさらないで下さい。」


 美玖さんのマネージャーだった・・・いえ、マネージャーの今井沙織さんが入所する手続きを終えた所です。


 これで、少なくとも芸能関係で美玖さんが嫌な思いをする事が減るでしょうし、何かあれば守る事が出来ます。

 翠さんにもお世話になっているし、二人は瞬さんを支える大事な仲間です。

 これ以上何事も無いようにしたいですね。


「さて、それでは帰りましょ・・・」


 Prrrrrrrrrr!


 電話が鳴りました。

 なんでしょう?


 見たことが無い番号ですね。

 それに名前が表示されないという事は、登録外の番号のようです。


「はい。」


 あまり出たく無いのですが、仕事関係の可能性もある以上出ざるをえません。


『ハローミサキ!』

「・・・どなたです?」

『ボクだよボク!』


 本当にわかりません。

 誰でしょうか?

 新手の詐欺でしょうか?


「イタズラなら切りますね。」

『ノーノー!イタズラじゃないよ!ボクだよ!デビットだよ!』


 ・・・デビット?

 たしか・・・


「デビット?デビット・ケーシー?」

『Oh!YES!!』


 デビット・ケーシー。

 確か、以前お父様から婚約者にどうかと言われた事がある男ですね。

 勿論断りましたが。

 向こうの大企業の御曹司だった気がします。


 何度かパーティでも顔を合わせた筈ですね。

 顔は整っていたと思いますが、あまり好ましくない方だったと思います。

 それと言うのも・・・


「なんの用ですか?」

『つれないなぁミサキ。ボクが電話してるんだから、もっと喜んでくれても良いじゃないか!ボクからの電話で、喜ばない女性はいないよ?』


 これです。

 なにかにつけて鼻につく自信過剰なところ。

 謙虚な瞬さんとは正反対の人。

 そしてプレイボーイである事を隠しもしないその精神性。

 端的に言って、嫌いなタイプですね。


「・・・私も忙しいのです。要件があるのならば、お早くお願いします。」

『そう?じゃあ早速。実は今ミサキの国に来ていてね。この後会おうじゃないか。次の予定はキャンセルで頼むよ。』


 ・・・こいつ、馬鹿ですか?


「無理ですね。では失礼します。」

『はぁ!?あ、ちょっとミサ・・・プーッ、プーッ』


 電話を切ってやりました。

 すぐに今の番号を着信拒否にします。


 それにしても鬱陶しい。

 出来ればもう二度と顔を見たくありません。

 これで諦めてくれたら良いのですが・・・








「は?今なんとおっしゃいました?」


 帰りの車内での電話。


『・・・すまん、美咲。もう一度言う。ケーシー家の跡取りがパーティを開くので、お前に出席して欲しいと・・・』


 それはお父様でした。

 その内容は、聞きたくない物。 


「お父様。私は、対外的には、すでに瞬さんの婚約者の筈です。」

『そうだな。だから、それは先方にも伝えている。』

「で、あれば!」

『今回、外務省から泣きついてきてな?なんとかならないかとな。』


 お父様の渋い声が聞こえます。

 どうやら、お父様自身も渋々なようですね。

 本当は、こんな事を伝えたく無いのでしょう。


「お父様。その話が、皆さんの逆鱗に触れる可能性があるのが、分かって仰っているのですか?」

『・・・勿論わかっている。私だってこんな事は伝えたくないさ。だが、だからと言って伝えないのは商売人として失格だ。だから、念の為伝えただけだ。』


 お父様も、皆さんの力の事はよく分かっている。

 だから、刺激したくない筈。


「でしたら、金輪際このような内容の話はしてこないで下さい。」

『わかった。私から断りを入れておこう。』

「お願い致します。では。」


 ・・・はぁ。

 しつこいですね。


「大丈夫か?美咲?」


 フォーティさんが心配そうに私を見ています。

 よく見ると、美玖さんや美玲も同じでした。


「いえ、大丈夫です。」


 私は、面倒事がこれでは終わらない予感を抱えつつ、帰路につきました。

 そして、それは的中したのです。


 それは翌日、学校での事です。


「あ〜・・・今日は学校見学という事で・・・あ!ちょ、ちょっと!!」


 担任の先生の挨拶中に、ズカズカと教室に入ってくる外国の男の人と、女の人。

 

「誰あれ!?外国の人!?」

「かっこいい!!」

「素敵・・・」


 クラスメイトの女の子達の黄色い悲鳴。

 しかし、私は苦虫を噛み潰した表情をしていたでしょう。


「やあ、ミサキ!会いに来たよ!!」


 ・・・本当に、鬱陶しいですね・・・

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