第88話 正体が判明しました
「シューくん大丈夫!?」
「シュン!!」
こちらに駆けてくるクォンとラピス、そしてその後からリリィやジェミニ、美咲達も来た。
「シュン!大丈夫・・・」
「ひどいなぁ。」
「「「「「「「「「!?」」」」」」」」
声がした方向を見ると、男の人が無傷で・・・焦げ跡一つ無く立っていた。
この人・・・本当に何者なんだ!?
「僕は彼の相談に乗っていただけだよ?」
「やかましい!シュンの魂の動悸を感知したから急いで来てみたら・・・貴様!!シュンをどうするつもりだ!!」
「あ、待っ・・・」
「はっ!」
「ふぅっ!!」
僕が止める間も無く、ラピスとクォンが飛びかかる。
「おっと。」
「うっ!?」
「嘘っ!?」
ラピスの斬撃とクォンの蹴撃を
この人、本当に強い!!
「いや、僕は彼に何も「神護結界術『英雄の鎧』!!これでミサキさんたちは安全です!」・・・聞いてくれない。まいったなぁ・・・」
「ナイスリリィ!みんな離れて!最上級火炎魔法『メギド』!!」
「お?結構強そうな魔法だ。でも・・・ふん!!」
「そんな!?」
男の人が突然構えて大きく足踏みし、そのまま突きを打つと魔法は弾け飛んだ。
魔法を拳で!?
その瞬間、隙を突くように美嘉が突っ込んだけど、簡単にいなされている。
「くぅ!?なんだこの化け物!?このような存在がおるなどと聞いておらぬぞフォーティ!!」
体勢の崩れを上手く立て直して、冷や汗を流しながら再度飛びかかろうとする美嘉やクォン達。
しかし、
「『皆の者!落ち着け!!』」
「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」
フォーティから神言・・・とでも言うのか、凄まじい力が込められた言葉で、全員が動きを止めた・・・いや、男の人は普通に動いて頭を掻いている。
「やあ、フォーティさん。」
「・・・何故、貴方がここに・・・管理者殿。」
「「「「「「「「「管理者!?」」」」」」」」」
フォーティの言葉に驚く。
そして納得した。
通りで強い筈だよ。
神様だったんだ・・・
「ちょっと創造神様から彼に伝える事があってね。」
管理者さんはそう言った。
そして、僕にウィンクした。
・・・封筒の事は黙ってろって事?
「用事が済んだから、帰ろうと思ったんだ。」
「・・・しかし、瞬は明らかに異常な状態になっていました。返答次第では、いくらあなたが管理者最強と言えども、一矢報いたいと思います。」
管理者最強だって!?
そんな人相手に駄目だよ!!
でも、震えはまだ止まってくれない。
その間にも、震えが止まらなくて立てない僕の前にみんなが出て、管理者さんの前に立ちはだかる。
その中には、美咲や美玖ちゃん、美玲もいた。
当然震えてたけど、表情は決死の覚悟が伺える。
こんな時に立てないなんて・・・僕はどれだけのトラウマを抱えてたんだろう・・・いや!それどころじゃない!止めなきゃ!!
「・・・うん、良い子達のようだね。でも、大丈夫、僕は何もしていないよ。」
「では、何故?」
「彼にアドバイスをしてたんだ。トラウマを乗り越える為の、ね。君たちはもう知っているんでしょ?彼が何を悩んでいたのかを。」
「え!?」
「「「「「「「「「・・・」」」」」」」」」」
そうだったの!?
みんなは無言だったけど、その表情が物語っていた。
「なら、後は彼から聞くと良いよ。僕はそろそろ帰らないと怒られ「誰に怒られるの?」そりゃ決まってるさ。
管理者さんの言葉を遮るように女性の声がした。
管理者さんが驚いて後ろを振り向こうとして・・・頭を鷲掴みにされて止められてる。
その女の人は、管理者さんと同じ位の年齢で、長い黒髪ととても綺麗な顔立ち、そしてなんというか・・・大きな女性の象徴とほっそりとしたくびれ、すらりと長い足・・・僕、美嘉達と同じ位綺麗な人って初めて見たかも・・・今は不機嫌そうにしてるけど。
「あなた・・・こそっと出ていったと思ったら、何やってるの?押し付けられた仕事で妻である私達が苦労してるっていうのに。」
「ち、違うんだ!僕はただ創造神様からの頼まれごとを・・・」
「それが楽しそうに戦闘をする言い訳になるのかしら?」
「・・・なりません。」
「おしおきね?」
「・・・はい・・・」
な、なんだろう・・・なんか、凄く親近感が湧くなぁ・・・そんな気の抜ける二人のやり取りを見たからか、いつの間にか震えも止まっていた。
その女の人はちらりと僕を見る。
「・・・なるほど。あなたが勇者ね?その剣、大事にしてあげて?」
「え?うわっ!?なんで勝手に具現化して・・・」
何故か聖剣が目の前に具現化してなんだか光ってる!?
「その剣は、雪月花シリーズの第二世代なの。私が持つ、この剣、『雪』の子供みたいなものね。『月』って呼んであげて?」
いつの間にか女の人の手にも剣が具現化してた。
あれ・・・聖剣だね。
ても、僕の持つ聖剣よりもずっと力を内包しているみたい。
それと・・・『月』か。
「よろしくね、『月』」
僕のその言葉で、聖剣が大きく光った。
なんとなく、喜んでいるような感情が伝わってくる。
「・・・うん、その子をよろしくね。そうそう、フォーティさんだったわね?」
「・・・」
女の人はにこりと僕に笑みを見せてから、今度はフォーティの方を向く。
フォーティは無言だ。
「あなたの管理していた世界は、今は私が管理する事になったわ。まぁ、正確には私達、だけど。まったく創造神様はいつも難題ばっかり持ってきて・・・いくら私達の中に元管理者がいるからって・・・私まで管理者にするだなんて・・・」
「・・・すまない。私が放棄したから・・・」
「それは違うわ。あなたは正しい選択をしたと思う。だって、私達と共にいる元管理者はとても幸せそうだもの。あなたもそうなると良いわね。あの世界は私達がしっかりと管理するから、安心して?」
「・・・ありがとう。」
「いいえ、どういたしまして。」
フォーティがホッとすると、女の人はまた微笑んだ。
「最後に・・・あなた。」
「・・・なんだ。」
美嘉が睨むように女の人を見る。
その頬に汗が流れるのが見えた。
気圧されてる・・・あの、魔王が・・・
「あなたは、彼を正妻として支える事が出来る?私に誓えるかしら?」
「・・・貴殿に誓う必要性を感じないし、元魔族としても神には誓いたく無いが、この妾の血に誓おう。妾はシュンを支え、シュンと共に生き、シュンと共に死ぬ。」
「そう。じゃあ頑張ってね?これは餞別。」
女の人がにこりと笑って何かを放った。
美嘉が手で受け止めると、そこには鎖があった。
「・・・これは?」
「それは、あなた達の寿命を操作するものよ。」
「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」
じゅ、寿命を操作するだって!?
「あなた達は種族も違えば、寿命も違うでしょう?それは私達も通った道なの。私達はこいつが管理者になって、その眷属になる事で解決したけれど、あなた達がそう出来るとは限らない。だから、それを上手く使ってなんとかするのね。その金属は、錬金術で分離出来るわ。頑張りなさい。こいつの正妻・・・同じようなコミュニティーの正妻であるあなたと彼の先輩としての餞別よ。」
・・・正妻としての餞別、か・・・ん?あなたと彼?
「私も昔、貴方と同じように勇者だったのよ。頑張りなさい後輩クン。」
・・・なんて綺麗な微笑みを見せる人なんだろう?・・・って痛い!?何!?
僕の背中が一斉につねられる。
振り向くと・・・全員がつねってる!?なんで!?
「・・・見惚れ過ぎだ、馬鹿者。」
ムスッとした表情の美嘉の言葉に、全員が同じような表情で頷いた。
そんな僕達を微笑ましいものを見るようにしてから、女の人は管理者さんを見た。
「さて、帰るわよ?それと・・・わかってるわね?」
「・・・わかりたくない・・・痛い!?やめてよ!!耳痛い!!」
「うっさい!さっさと帰って仕事をやって、それから一週間休み無しだと思いなさい?寝室から出られると思わないことね。」
「ええ!?死んじゃうって!」
「大丈夫でしょ、あなたなら。みんなも気合入れてるわ。せいぜい頑張るのね。」
「いやだ〜!!瀬尾くん!君は僕みたいになっちゃ駄目だよ!絞り殺され・・・」
そして、二人は共に消えた。
・・・絞り殺される?
どういう事?
フォーティは、ああ〜っという顔をしてるけど・・・
「・・・なんでも、あの管理者への罰は、いつも決まっていて、不眠不休でその・・・性交し続けるというもの・・・らしい・・・25人の妻を相手に、な。」
「「「「「「「「「・・・」」」」」」」」」
嘘・・・でしょ?
こうして、不思議な管理者さんとの邂逅は終わった。
・・・僕は絶対、ああはなるまい・・・
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