第87話 不思議な人に会いました

 いよいよ明日から連休が始まる。

 でも、僕は未だに答えを出せないでいた。


 そう言えば、3日位前から僕は一人で帰宅してるんだ。

 なんでも、みんなは用事があるからって、みんなだけで行動しているんだ。


 少し寂しいような、でも、なんだかホッとするような・・・複雑な気分だ。

 だから、少しでも早く答えを出そうと、考えに没頭している。


 でも、ずるずると出せないまま今日まで来てしまった・・・

 はぁ・・・まいったなぁ・・・



 僕は、ここ数日、帰りに寄っている公園に来た。

 この公園は、広さの割にはあまり人がいない。

 日中は子供連れの人で賑わってるんだろうけど、夕方の今は僕以外見当たらない。

 考え事をするには丁度いいんだ。


 ブランコに揺られて考える。

 

 僕が家族を作るのを怖がっている理由、それは多分僕の両親の事が関係している。

 それは分かった。

 多分、トラウマになっているんだ。


 問題は、それをどうやって払拭するのかって事。

 その方法が思いつかない。


 でも、それじゃ駄目だ。

 みんなの・・・僕の為にも、ちゃんと答えを見つけないと!

 でも、どうしたら・・・


「う〜ん、風が気持ちいいね。ちょっと寒くなって来たけど、僕には丁度良いや。君はどう?」


 いきなり隣から声がした。

 びっくりして見てみると、隣のブランコに大人の男の人が座って揺れている。


 いつの間に!?

 全然気配がしなかったんだけど・・・


「あ、驚かせちゃった?ごめんね?」

「い、いえ良いですけど・・・」


 男の人は、二十代半ば位かな?

 黒髪に優しそうな感じ。

 でも、僕にはわかる。

 この人・・・すっごく強い!

 勿論、魔力を仕えば僕の方が強い・・・と思うんだけど、何故か勝てる気がしない。

 なんなんだろうこの人?


「で、どうしたの?今にも、死にそうな顔してたけど。」

「え!?そ、そうですか!?」

「うんうん。何か思い詰めてるような顔してたよ?」

「・・・そう、かもしれません。」

「だったら、僕に話してみる?こう見えて、色んな経験して来たからね。相談相手にはなれると思うんだ。それに、知らない人相手にだったら、話しづらい事でも、話せるかもしれないし。勿論、強制はしないよ?」


 ・・・なるほど。

 みんなには相談し辛いし、この人良い人そうだし・・・大人だったら、何か良い考えが聞けるかもしれない。


「・・・わかりました。じゃあ、相談に乗ってもらって良いですか?」

「あはは。僕から聞いたんだよ?良いに決まってるさ。」

「・・・ありがとうございます。実は・・・」


 僕は話した。

 勿論、複数彼女がいるなんて事は言ってない。

 不快にさせちゃうかもだし。


 男の人はうんうんと頷きながら話を聞いてくれた。

 僕の話を聞き終えるまで、一切余計な事は言わずに、ただ、聞いてくれたんだ。


 全てを話し終えると、ぽつりと男の人は呟いた。


「将来結婚を考えている人がいて、その人の事を好きなのに、その人と家族になるのが怖い。それはおそらくご両親の事故死が関係していて、それがトラウマになっている。そのせいで、関係を深められず、つらい思いをさせている、か・・・なるほどね。若いのにしっかりと考えてるね。大したものだね、凄いや。」


 そう言って、僕に微笑む男の人。

 なんだろうこの安心感・・・


「じゃあ、君はこれからトラウマを払拭しなきゃいけないんだね?」

「はい・・・それも、明日がみん・・・彼女と約束した期限なんです・・・僕、どうしたら良いのかわからなくて・・・」

「ふむ・・・君は、その彼女の事を好きだと言ったね?その子は、どれくらい信用出来るの?」

「勿論、心から、です。」


 男の人の問いかけに、ノータイムで返す。

 僕は、みんなを信用している。


「じゃあ、ちゃんと思ってる事を話して協力して貰おう。」

「え?」

「あのね?君がそう思っている事を、その子が知っているかどうかわからない。でも、もし気づいてたら、心配してると思うし、話してくれないのは悲しいと思うよ?僕が彼女ならね。」


 ・・・それは、そうかもしれない。


「それと、厳しい事を言っても良い?」

「・・・はい。」


 男の人は表情を真剣なものに変えた。

 僕も、真っ直ぐ男の人の目を見る。


「君は、まだ逃げている。君がトラウマに向き合う気が本当にあるのであれば、行かなきゃいけないところがある。」

「・・・え?」


 行かなきゃ行けないところ?


「そして、そこに行くのはとても怖いと思う。だったら、君を愛してくれているその子の力を借りてでも行くべきだ。」

「・・・それは・・・」

「わかってるんだろう?君が行くべきところは、君の両親が亡くなった場所だよ。」

「っ!!」

 

 その言葉に、動機が激しくなる。

 なんだコレ!?

 こんなの初めてだ!!


「無意識に避けているんだよ。その場所に行く事に。突然の両親の死、それを君はまだ受け止めきれていないんだ。だったら、ちゃんとその場所に行って、両親を前に宣言すると良い。その子と生きていくって。君の覚悟を見せるんだ。」

「・・・」


 身体に震えが来る。

 ちゃんと・・・ちゃんと受け止めていた筈なのに・・・僕は・・・逃げてたのか・・・?


 男の人はふっと笑って、僕に封筒を差し出した。


「さて、それじゃ僕は帰るとするよ。本当は、これを渡しに来たんだよ。瀬尾瞬くん?」

「え・・・?なんで僕の・・・名前を・・・?」

「ちょっと頼まれてね。後、コレも渡しておくね?これは僕からの餞別って事で。」


 男の人はもう一つ封筒を差し出した。

 震える手でなんとか受け取る。


「ああ、そうそう、君のには内緒にしておいた方が良いよ?それを知られたら、多分大変な事になるからさ?」

「・・・え?」


 苦笑しながらそう言う男の人の言葉に引っかかりを覚える。


 彼女・・・たち?

 僕、そこまで言って・・・ない・・・


 封筒を渡して来た後、男の人は少し離れて振り返った。


「じゃ、僕はそろそろ・・・」

絶望の黄昏ぁぁぁぁアルフェミニカァァァァ!!!!貴様ぁ!!シュンに何をした!!!!!」

「!?」


 世界が一瞬で黄昏色に変わる。

 そして、その瞬間、男の人のいた所に巨大な火柱が上がった。

 何してるの美嘉!?


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